「一切返事をしない」というポリシー
そうして、A氏から返事がなかったことなどほとんど忘れていた1カ月半ほど後、突然、A氏のことをよく知る共通の友人(X氏)から電話が来た。ちょうどその時期、私が精神的に落ち込んでしまったことをあるコラムで書いており、X氏はそれを読んでくれたらしい。
「最近、落ち込んでしまったそうですが、もしかしてAさんが影響していますか?」
「えっ? 何の関係もありませんよ! なんだか突然、ドーンと気持ちが落ちてしまったんです。これまでも数年に一度くらい、この手の落ち込みを経験しているので、持病みたいなもの。大丈夫ですよ!」
「そうですか。ひとまず安心しました……。いや、実はここのところ、Aさんは『気乗りしない案件とか、断る案件には一切返事をしない』というのをポリシーにしているそうなんです。落ち込むときって、些細なことが原因になる場合もあるじゃないですか。もしかしてAさんからメールの返信がなかったことが、中川さんが落ち込んだ一因になったのではないかと心配になったんですよ」
「いやいや、そんなことは何も影響ありません。『Aさん、忙しそうだな』くらいの印象しか持ちませんでしたし、落ち込みには何も関係ないです」
こんな調子で、X氏とは簡単に会話を終えたのだが、A氏の妙なポリシーに関する情報は完全に寝耳に水である。そして湧いてきたのは「Aって『大人の中二病』の痛いヤツだな……」という呆れと憐憫の情だ。ちなみにA氏は、アラフォーのいい年をしたオッサンである。
A氏の思考を想像してみると……
この「気が乗らない案件、断る案件には一切返事をしない」というポリシーから浮かび上がってくるのは、以下のようなA氏の思考だ。
【1】オレ様のようなすげー人間から、必ず返事をもらえるなんて思うんじゃねーぞ
【2】お前ごときがオレ様と一緒に何かをしようなんて、1兆年早いわ
【3】オレ様に「うん」と言わせたかったら、もっと条件のよいオファーを出せ
【4】オレ様は売れっ子なので、別にお前ごときから仕事をもらう必要もない。こちらにも仕事を選ぶ権利がある
【5】オレ様が手掛けている仕事のほうが、お前から来るクソ仕事より社会的意義がある
まぁ、実績や知名度などあらゆる面でユニークな、堀江貴文氏レベルの独自性を備えた人物であれば上記のような考え方でも理解できるところはあるし、こちらも基本的にはレスをもらえない前提で打診する。万が一、返信でもあれば「えっ? マジで返事が来た! ああ、よかった」となるだろう。
しかしながら、A氏はいくらでも代替が効く程度の存在である。当然、私としてもA氏に何かを依頼したり、連絡を取ったりすることは金輪際ないだろう。いま、どれだけ調子よく仕事が回っているのか知らないが、将来、お前に対してオファーが激減して実入りが減ったとしても、そのバカげたポリシーを実践し続けろよ、と思う。いやはや、それほどまでの実力派だったとはお見逸れしました。素晴らしいですね(棒)。
私の知り合いでこの話にピンときた方、おそらくあなたが思い浮かべている人物は、たぶんA氏で間違いない。A氏はおそらくこの数カ月程度のあいだに、多くの打診や相談に対して返事をせず、相手を困らせたりしているのだろう。