在職老齢年金制度をめぐるドタバタ劇

それを象徴するのが在職老齢年金制度の見直しである。厚労省が社会保障審議会年金部会に提案した当初の改革案は、65歳以上の働く高齢者の年金カット基準を大幅に緩和する内容だった。

全世代型社会保障改革は、検討会議だけで行われているわけではない。経済財政諮問会議や社会保障審議会、労政審議会、未来投資会議、社会保障制度改革推進会議など、関連する審議会を総動員して繰り広げられている一大イベントなのである。

今年(19年)の6月、未来投資会議は在職老齢年金制度について「将来的な制度の廃止も展望しつつ、(略)速やかに制度の見直しを行う」との答申をまとめている。この文言は6月に決定した「骨太の方針2019」に盛り込まれた。

人手不足対策として高齢者の就労促進が大きなテーマになっている。それを阻んでいるのが在職老齢年金制度だというわけだ。

現行の基準(賃金と年金の合計)は60~64歳が月額28万円、65歳以上が47万円。この基準を超えた分の賃金が年金からカット(支給停止)される。政府は当初これを65歳以上で62万円に引き上げようと提案した。

対象者(2018年度末)は約41万人、支給停止額は約4100億円にのぼる。これを62万円に引き上げると対象者が23万人に減り、支給停止額は1900億円に減少する。つまり年金財政は差し引き2200億円の負担増となる。

人手不足が深刻になっている折、高齢者の就労促進を促すのは時宜にかなった政策だろう。だが、在職老齢年金の基準緩和と高齢者の就労意欲の関係については、はっきりとした因果関係が確認されているわけではない。

これでは年金財政の健全化どころか、就労促進という名目を笠に着た高所得者優遇策である。年金部会でも反対論が大勢となり厚労省は当初案を撤回、51万円という案を再提出した。しかし、この案でも批判は収まらず、最終的には47万円で据え置く方向で議論の収束を図ろうとしている。

シワ寄せは生活弱者に

65歳以上の基準緩和は見送るものの、60~64歳については現行の28万円を47万円に引き上げる方針だ。現行基準の支給停止額は4800億円(2019年度末の推計)。基準緩和によって新たに3000億円程度財政負担が増える見込みだ。

この支出増加分を何らかの形で補填しない限り、年金財政は安定どころかさらに悪化する。そこで検討されているのが支給開始時期を75歳まで繰り下げる選択制の導入、年金加入者の拡大策などである。中でも影響が大きいのが加入者拡大による増収策である。

厚生年金への加入は現在、従業員が501人以上の企業で①労働時間が週20時間以上②賃金が月額8.8万円以上③勤続年数が1年以上の従業員に義務付けられている。