政府は所得代替率(※1)を50%以上に維持すると国民に約束している。年金モデルが想定する現役の月額報酬は約40万円である。代替率50%ということは、月額20万円の年金を現役が負担することになる。

これを10人で負担すれば一人当たりの負担は2万円、3人だと7万円、肩車だと丸々20万円を一人で負担しなければならない。考えただけでも恐ろしい。だが、これが日本の年金が直面する現実であり、現役世代が抱えている不安の源泉でもある。

当面、年金制度が破綻することはない。政府が想定する最悪のケースでも、国民年金の積立金がゼロになるのは33年後の2052年である。時間はまだ十分にある。この間に速やかに肩車社会に耐えられる年金制度に衣替えする、

これができれば現役世代が抱えている不安は解消するはずだ。

(※1)年金の支給額が現役世代の標準月額報酬の何%になるかを測る指標。国民が受け取る年金のメドをパーセントで示している。

「改革」で経済は好循環を始めるはずが…

「改革」という言葉を使う以上、首相も年金問題の本質を理解しているのだろう。だから、あえて検討会議の冒頭で「改善」ではなく「改革」と強調した。

いますぐに実現できなくても、持続可能な年金の将来像を提起できれば、現役世代に安心感が広がり、将来の生活設計も立てやすくなる。そうなれば、必要以上に財布の紐を締める必要もなくなるだろう。預貯金を減らし消費に回す余裕ができる。

利用したいサービスも含めれば、買いたいものは山ほどある。消費が増えれば低迷する経済に活力が戻り、成長のエンジンに火がつく。人口が減っても経済が成長すれば、物価が緩やかに上り、つれて給料も上がるという好循環が始まる。

所得代替率も向上する。そうなれば、2004年に導入された「マクロ経済スライド」(※2)も生きてくる。これが「改革」を通して実現する「100年安心」のシナリオだろう。

だが、議論がスタートして早々に期待感は落胆に変わった。理由は簡単だ。「改革」の先に見えたのは高所得者の優遇と、低所得者への負担の付け替えだった。「最大のチャレンジ」がこれでは、国民の多くは納得しないだろう。

(※2)平均寿命の伸びや出生率、インフレ率など経済の変化を勘案し、年金の支給額を機械的に調整する仕組み。年金の支給額を抑制する機能をもっている。