引退後の仕事が心配だから、プロにならない選手たち
――丸山さんのように引退後も大活躍される方がいる一方、スポーツ選手はセカンドキャリアについて悩まれると聞きます。
【丸山】私は昔、東京電力のチームに所属していたんですが(編注:東電マリーゼ。ベガルタ仙台レディースの前身)、当時、会社でやる仕事はコピーとお茶くみでした。与えられる仕事がそうだったんです。そもそも周りは技術系の知識を持って入社してきている人ばかりなので、サッカー選手として入社している私たちがその知識をつけようと思ったら相当大変です。そんな環境だったので、引退後に東電で働き続けたとしても、簡単な雑務しかできなかったと思いますね。
結局私はプロ選手としてサッカーを極めたかったので退社してしまいましたが、「引退後も東電で働けるならプロになりたくない」って選手はけっこういたんです。契約や引退後のことが不安定なプロになるよりも、選手生活が終わった後にサラリーマンとしての生活が保証されているなら、そっちの方がいいってことなんですよね。
でも引退後にそのまま東電で働いた子たちも、キャリアアップに悩んだり、本当にこれがやりたことなのかわからないと言って、会社を辞めちゃったりした人もいるので……難しいですよね。
死に物狂いで競技に専念するアメリカの女子サッカー
――今のお話は日本の女子サッカーのレベル問題にも関わってきますよね。
【丸山】東電退社後にアメリカのプロリーグへ行ったんですけど、向こうは全員プロなので、働く必要がありません。だから一日中ずっとサッカーしかしてないわけですよ。そりゃコンディションも違いますし、モチベーションだって違いますよね。ダメならすぐ契約解除になりますから、みんな死に物狂いです。
男子は「働きながらサッカーするなんて嫌だ」って言ってみんなプロになりますよね。でも女子の場合は結婚・出産も視野に入れている人もいるでしょうから、サッカーに100%捧げられる人がどれだけいるのかと考えると……これも難しいですよね。
ただ、今思えば2011年のワールドカップ優勝メンバーは、澤さんはじめみんな過酷な環境から這い上がってきた人たちばっかりでした。負け続けることがあっても、それでも諦められなくて、しがみついてきたんですよね。「サッカーとしっかり向き合いたい」、「絶対世界一になりたい!」と、サッカーのことだけ考えている人たちが集まっていたから、やっぱり強いですよ。かといってモチベーションだけでは女子サッカーのことは語れないですし……。
――日本サッカー協会が、2021年に女子プロリーグを創設すると発表しましたね。
【丸山】プロリーグができることはとてもうらやましいですし、日本の女子サッカーが確実に強くなると思います。ただ、お金をもらって全員がプロとしてプレーするリーグとなると、今まで以上にレベルの高いプレーを見せるという責任が生まれると感じますし、スポンサーさんにも納得してお金を出してもらわないといけないですよね。そういうプレッシャーを乗り越えた先には、再び世界一が待っていると思います。