チケットは即完売の大人気観光列車

周りには何もなく、ポツンとたたずむ秘境駅。癒やしを求めて秘境駅巡りをしたい鉄道ファンは多数存在するが、1日で回ろうと思えば大変だ。そもそも運行本数の少ない飯田線。ひとたび秘境駅に降りれば次の列車がくるのは2,3時間後というのもザラである。コンビニも喫茶店もない秘境駅にポツンと取り残されるのは想像するだけでも気が遠くなる。

筆者撮影
為栗駅の時刻表を見るとスカスカである

そんな秘境駅ファンの悩みを一挙に解決してくれるのが、2010年から毎年春と秋に数回運行されている急行列車「飯田線秘境駅号」だ。1日でたくさんの秘境駅を回れる夢のような観光列車であり、毎回チケットが発売されると即完売するという人気ぶりだ。

なぜこんなにも人気なのか。飯田線秘境駅号の企画を担当するJR東海・運輸営業部の大谷直也さんこう分析する。

「『どうしてこんなところに駅があるの!?』という驚きが、秘境駅の人気に火をつけていると感じます。秘境を訪ねるテレビ番組も人気で、みんな『行ってみたい』と思うのでしょう。小和田をはじめとする秘境駅には、かつて周辺に集落がありましたが、ダムの完成によって水没してしまったところもあります。このように駅一つ一つに歴史があり、そのロマンに思いをはせたり、大自然の魅力を感じるのも人気のポイントです。たくさんの人が癒やしを求めているのでしょう」(大谷さん)

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豊橋駅に入線する飯田線秘境駅号。多くのファンが歓迎する

スタッフはポケトーク持参で外国人受け入れ態勢も万全

この飯田線秘境駅号は国内に限らず海外からも注目を浴びている。今年5月には「COOL JAPAN AWARD 2019」を受賞。このアワードは世界が共感する「COOL JAPAN」を世界各国の外国人の審査によって発掘・認定するものだ。

審査員は「誰も降りない鄙びた秘境の無人駅に静かに止まる列車は映画の世界のよう。深い山の中、あたり一帯に囲まれ、蝉の鳴き声だけが聞こえるような情景はとても日本的」とコメントしている。ちなみに他の鉄道会社の受賞は、大井川鉄道と京都丹後鉄道だった。

現に、今年春に運行した秘境駅号には、バックパックを背負った欧米からの旅行客がいたそうだ。大谷さんに聞けば海外に向けて宣伝は打っておらず、SNSか何かで情報を仕入れたのかと推測される。JR東海は今回のアワード受賞を契機に、外国人の乗客が増えることに大きな期待を寄せる。秘境駅号はインバウンドの受け入れ態勢も万全で、英語版の沿線マップ配布や、添乗スタッフに携帯通訳機「ポケトーク」を配備している。

11月24日、筆者も飯田線秘境駅号に乗車した。運転区間は豊橋~飯田(長野県飯田市)。午前9時50分に豊橋を出発し、飯田に着くのは午後3時半。約5時間半の列車旅である。

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使用車両はワイドビューふじかわ等でおなじみ、回転式リクライニングシート装備で、窓の大きい373系(静岡車両区所属)。3両編成だ

座席は全部で168席。この日もほぼ満席だ。カメラや時刻表を手にした鉄道ファンをはじめ、ファミリー、シニアグループなどでにぎわう。女性も半分近く乗車していたのが印象的だ。一部旅行会社では、秘境駅号に乗車するツアーも販売されている。

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鉄道ファンだけでなく、家族連れ、女性グループも多い。年に数回、秘境駅が人でにぎわう