鹿島を運営してきた旧住友金属、現在の日本製鉄にとっては、長年鹿島という土地に根ざし、従業員や地域の方々の幸福度が上がった状態において、新しい経営者が入ってみんながより豊かに、楽しい町にしてくれたほうがいいと判断したのでしょう」
と高橋氏は言う。
往々にして、企業買収には手放す側にマイナスイメージが生じるものだが、今回、日本製鉄は次代の経営者にうまくバトンタッチした格好だ。
「もともと、鹿島を保有することが日本製鉄の負担になっていたわけではないですから。発表の仕方もよかったですね。これから鹿島は国内のドメスティックなレベルから、アジアのリージョナルなレベルに打って出ようとしています。それと親和性が高いのがメルカリのようなIT企業。最先端の企業が登場し、両者が手を組むのは時代の必然と言えます」
JクラブとIT企業のタッグ。この先鞭をつけたのは、2004年、ヴィッセル神戸の経営権を神戸市から譲り受けた楽天である。当時、神戸は累積赤字に苦しみ、クラブ運営が立ち行かなくなっている状態だった。
ホワイトナイトとして現れた楽天は神戸の環境整備、チーム強化に資金を投下し、アグレッシブな戦略を次々に仕掛けていった。近年は元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキ、元スペイン代表のアンドレス・イニエスタといった世界的なプレーヤーを獲得し、ファン層を拡大するとともにリーグ全体を活性化させている。
惜しみなく強化費をつぎ込み戦力を増大させる一方、タイトル獲得には届かず、中位に甘んじているところがサッカーの奥深さだ。
「楽天の三木谷(浩史)会長兼社長と同じく、18年、J2のFC町田ゼルビアの経営権を取得したサイバーエージェントの藤田(晋)社長もまさしくいまの時流の人。スポーツの持つ価値の高さにいち早く気づいた人のひとりです。サッカークラブは、ビジネスプラットフォームの役割を果たすんですよ。2週間に1度、ホームゲームのたびに関係者がスタジアムに集まり、情報交換ができる。また、サッカーは世界とつながるうえで非常に有用なコンテンツです。クラブを保有しているだけで、面倒な手続きを省略して会える人が大量に増えます。各国の王族とも接点を持てるのは、サッカーならではのメリットです」
「お買い得」なJクラブの条件は
では、将来的に買収候補となりうるクラブの条件とは。どのような要素が企業から魅力に映るのだろうか。
「資本金が低く、買いやすいからといって現時点のカテゴリーが下すぎるのはきついですね。ステージを上げていく数年が機会ロスになる。タイム・イズ・マネーですから。要は、クラブの価値をどのように位置づけるか。収益そのものはプラマイゼロでいいんです。サッカーで利益を得ようという発想ではありません。クラブの本質的な価値は、人を集める求心力にあります。大事なのは、そこで出会う人の輪を活用してビジネスができるかということ。サッカーはそのコアになってくれればいい」
となれば、都心からのホームスタジアムへの近さや交通アクセスは重要なポイントになる。