「エグゼクティブ」たちの優越感をくすぐる

8棟から成るある大規模マンションは、そのうちの1棟がほぼ狛江市内に入っているにもかかわらず、その棟の住居表示を「世田谷区成城」とするのに成功した。一般に工場や会社などで複数市区町村にまたがる場合はどれかを代表地番として表示することは以前から行われており、この場合も8棟を「一体とした建物」と解釈したのだろう。ちなみにこの棟の住民は世田谷区民であり、同区に住民税を払う一方で、固定資産税の方は狛江市にも払っているという複雑な立場らしい。

今尾恵介『地名崩壊』(KADOKAWA)

成城に限らず「マンション名は地価の高い方に流れる」傾向はあり、たとえば国立駅北口から徒歩5分の国分寺市光町のマンションの大半は「国立」を名乗るし、多摩市関戸にあるマンションは、京王線の特急停車駅である「聖蹟桜ヶ丘」を冠するのがふつうだ。

昭和40年代以降の住居表示実施で広域町名になった23区内では、最近ではさらなる「差別化」のため、あえて旧町名その他を持ち出して特別感を与えようとしている。たとえば港区赤坂の檜町、品川区上大崎の長者丸、岡山藩池田家の下屋敷の通称「池田山」を品川区東五反田のマンションに冠したりといった類だ。「殿様がかつて住んだ場所に高級マンションを買うステータス」(下屋敷に殿様は住まないが)といった「エグゼクティブ」たちの優越感をくすぐる命名であろう。

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