書店の手書きPOPはネットレビューと同じ効果がある

「Discussion(対話)」を促すことに成功している代表的な事例が、以前話題になった書店における店員さんの手書きの書評POP(売り場に設置される販促物)ではないでしょうか。実際にこのPOPによってその書店の売り上げが大幅に伸びたと言われることからも、このやり方は人間のモノを買う心理に非常にマッチしたやり方だったと考えられます。

このPOPが書店に来るお客様の買いたい気持ちを動かした裏には、対価と価値の検討を促し、さらに価値を向上させるような、いわばインターネットショッピングにおけるレビューと同様の効果があったのだと考えることができます。

このPOPが開発される前までは、書籍の価値を伝えるツールとして位置づけられていたのは、新聞の書評欄や本の帯に書かれた推薦文でした。これらはあくまで、対価を払って本を買った人が感じた価値ではなく、専門家が本に載っている情報の価値を診断したものです。

そこにやってきたのが、書店の店員さんというお金を出して本を買う立場の人の推薦。インターネットモールのレビューと同じ役割を果たすものが登場したことで、対価と価値の2つがテーブルに乗ることになった。それにより、店頭で対価と価値の検討のスイッチが入ったため、このPOPが本の売り上げ増加に大きく貢献したのです。

段ボール片に殴り書きされた「野菜の食べ方」を見て…

こうした対価を払う人の目線での情報は「Discussion(対話)」を促すうえで非常に有効ですが、実際に販売の現場に取り入れられているケースは多くはありません。

例えばスーパーの野菜売り場では、生産者の声が紹介されていることは多々あれど、その野菜を買うお客様の声が紹介されているケースはあまり見かけないと思います。

そこで、売り場にある各種の野菜に主婦目線でのコメント(パートさんに書いていただいたものでいいと思います)を書いたPOPを掲示する、といったことは検討してみる余地があると思います。

実際、私が大分県の山間部、玖珠町にある小さな地元のスーパーに行った際に、このようなPOPに出会ったことがあります。手書きで、しかも段ボール片に殴り書きされた、ちょっとした野菜のおいしい食べ方。ですがそれを読むだけでいろいろと味の想像が膨らみ、野菜はもちろん、そこに紹介されていた調味料までも買いたくなったことを鮮明に覚えています。

このスーパーには野菜以外にも至るところに、同じ人が書いたと思われる筆跡と着眼点のPOPが設置されていました。おそらくこの種のPOPを設置したことで、心が動いてついで買いをする人がたくさんいたのでしょう。何度かテストをする中でそれに気づいたバイヤーさんが、「これは効果があるぞ!」と広げたのが、このお店の各所にあるPOPだと思われます。