法的な規制を一切受けないことへの疑問

次に、法制面。今まで、読んでくださった方の中に、ペニスの挿入(性交)をともなう風俗営業は禁止なのでは? と思った方もいるだろう。たしかにペニスを女性器に挿入する営業は、「売春防止法」で禁止されている。ただし、「売防法」でいう「性交」は「膣性交」であり、売春の行為主体は女性に限定されている。つまり、男性が行為主体の場合は、たとえ挿入行為が行われていても「売防法」には引っ掛からない。

「性交」をともなわない営業、例えば「ファッションヘルス」のような業態でも、女性が行為主体の場合は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風営法)の規制を受ける。

「福島ゆみ子」『読売新聞』1937年3月28日号
女装男娼「福島ゆみ子」。1937年、東京銀座で私服警官を誘い「密売淫」(無届け売春)の容疑で逮捕された。築地署で取り調べたところ男性であることが判明し、法律が適用できず釈放となった。

「風営法」では届け出の対象になる「性風俗関連特殊営業」を定義しているが、「店舗型ファッションヘルス」については「個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業」とし、「派遣型ファッションヘルス」についても「人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業」としている。つまり、規制対象は「異性の客」の場合で「同性の客」の場合は対象にならないのだ。

だから、どんなに女性的な容姿のニューハーフ風俗嬢であっても、戸籍上、男性ならば、一切法的な規制を受けないことになる(ゲイ風俗の場合も同様)。つまり、法的に野放しなのだ。果たして、それでいいのだろうか?

従来の法律ではもう対応しきれない

実は、近代日本の法律は、女装のセックスワーカーの扱いに、常に苦慮してきた(結論的には、法規制の枠外)。例えば、外科手術で作った人工の膣を使った売春行為は売春防止法で摘発できるかという問題はすでに1960年代に起こっている(結論は、戸籍上男性なら人工膣を使って売春しても摘発できない)。さらに最近では、まったく想定していなかった事態も現実化している。

現在、日本には戸籍上の性別を変更した人が約1万人いる。その6~7割は女性から男性に移行した人(Trans-man)と推定される。Trans-manの多くは子宮・卵巣は摘出しているが、膣はそのままになっている(膣を閉鎖するためには膣粘膜を剥離する必要があるが、出血量が多くなり、リスクがあるため、多くの場合、行っていない)。

三橋順子『新宿 「性なる街」の歴史地理』(朝日新聞出版)

そうした、膣を持つ男性の一部が、セックスワーク、具体的にはゲイ風俗に進出してきている。つまり、男性が膣性交を行うという、売春防止法がまったく想定していない事態が生じている。従来の法律では、もう対応できないのだ。

日本国憲法に保障された男女同権はもちろん、「LGBT」(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)が性的マジョリティーと同等の権利を主張している現在、女性が行為主体のセックスワークだけが法律の対象というのは、あまりにもバランスが悪いのではないだろうか。

私は、人身売買である強制売春、組織売春には絶対反対だが、個人の自由意思によるセックスワークは法律で禁止すべきではないと考える。むしろ、行為主体が女性であれ男性であれ、区別することなく、基本的に合法化し、法律によって届け出制にすることで、性風俗産業のアンダーグラウンド化を防止し、セックスワーカーのリスク軽減を図るべきだと考える。

ニューハーフ風俗の変化の話から、だいぶ広がってしまったが、最後に、調査データの使用を許可してくださった畑野とまとさんに、心から感謝したい。

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