企業の自己学習支援は極めて手薄

しかし、転職を考えたとき、「自己学習」こそが、最も効果的な能力向上の手法であると筆者は考える。なぜなら、OJTは所属している企業特有のスキル等は身につけやすいが、他社で役立つスキルは必ずしも身につけられないこと、Off‐JTは表面的な知識やスキルは身につけられても、実践力を身につけるには十分でない場合が多いためである。

これらに対し、自己学習は当人が自身の強みとするコアの能力を自覚した上で、これに追加するのに適した能力を身につけることができる。10年前には書籍からの学び、資格取得講座の受講など、自己学習の手法は少なく学習効果は限定的であったが、近年はeラーニング、副業、サロン形式の勉強会など、バリエーションが広がってきており、複数の手法を組み合わせることで、知識やスキル、ノウハウなどを効率的に獲得しやすくなっている。

自己学習に対する就業者のニーズは極めて高い。既存調査(※2)によると、社員が能力開発に投入している総時間(平均で一人当たり年間47.9時間)の約6割を自己学習(自己啓発)に投じているとともに、社員の半数程度(49.8%)が研修や自己啓発の時間を増やしたいと回答している。

ところが、企業が社員の自己学習に対して行う支援は極めて手薄である。7割以上の企業が自己学習支援に対する支出を行っておらず、社員一人当たりの支出額は、年間平均3000円(2018年度)と少なく、かつ、過去4年間では低下基調(6000円→5000円→4000円→3000円)にある(※3)。これは自己学習の範囲を厳密に規定するのが難しい上、社員自身がその内容を選択することから、自己学習支援に対する企業のメリットが分かりにくいためと考えられる。

(※2)「教育訓練サービス市場の需要構造に関する調査研究」(独立行政法人労働政策研究・研修機構、2006年)
(※3)「平成30年度能力開発基本調査」(厚生労働省、2018年)

能力を高める上でどんな自己学習が効果的か

ところで、中高年層はどのような自己学習を行っているのだろうか。三菱総合研究所の保有するデータ(※4)によると、40代以降の正社員が行っている自己学習は、書籍による学習の他、講演会への参加、オンライン講座、講師としての学習支援など多岐にわたっている。

正社員の自己学習の実施状況

今回、このデータを用いて順序ロジスティック回帰分析を行い、自己の能力向上につながる可能性の高い自己学習のメニューを抽出してみた。目的変数を「自己の能力の発揮満足度」、説明変数を自己学習のメニューにして分析してみると、40代では「講演会への参加を通して学習する」「有志や仲間による自主的な勉強会を行う」「早朝の時間を利用して学習する」「パソコンや携帯電話等で電子書籍を読む」、50代では「講演会への参加を通して学習する」「有志や仲間による自主的な勉強会を行う」、60代では「テレビやラジオの学習番組を通して学習する」が有意にプラスとなった。

中高年層と一口に言っても、年代によって効果的な自己学習の方法は異なる可能性があるということが分かる。なお、この結果は能力発揮満足度と相関の高い自己学習の方法を分析したにすぎず、因果関係を説明したことにはならない点に留意する必要がある。

能力発揮満足度と特に関係の深い自己学習の方法として、ここでは40代と50代に共通している「講演会参加」と「自主的な勉強会」に着目してみたい。「講演会参加」については、いつどのような講演会が開催されているのかを常時、チェックしておかなければならず、常に情報感度を高めてアンテナを張ることのできる情報収集力が必要となる。

(※4)三菱総合研究所の「生活者市場予測システム」。2011年から毎年6月に設問総数約2000問、20歳から69歳を対象として日本の縮図となるような3万人を対象に実施している生活者調査。