リッチでデジタルな消費のイノベーター

この点に関して、裕福な親や祖父母世代を得意にする、ある百貨店の外商は次のように述べています。

「20代から30代の次世代はとても手強いです。外商を当てにはしていません。関心のあることは徹底的にネットで調べて学びます。40代、50代だったら、店頭に来てお店の人の話を聞きますが、今の20代から30代は小さい頃からネットで調べられる環境で育っているので、外商に相談する必要がありません」

親リッチは「デジタルな消費のイノベーター」であると言えます。このことは、同世代との比較だけでなく、親世代との比較においても重要な視点です。親リッチの父親や祖父は、企業経営者や医師などの忙しい仕事に就いているため、インターネットショッピングやネットオークションに割く時間は少ないでしょう。

また、高齢の女性は一般に、デジタル機器の利用が少なく、親リッチの母親や祖母もアナログな世代に属します。そう考えると、親リッチというのは、消費市場に初めて現れた「リッチでデジタルな消費のイノベーター」と言えます。

自分では買えない高級品を父親のカードで

西山旬さん(仮名)の父親は、代々続く雑貨店を旬さんの祖父から引き継いで以降、一代で九州の財閥と言われる企業グループを作り上げた、地元では知らない人がいない、やり手の経営者です。建設業、ガソリンスタンド、スーパーマーケット、ラブホテル、レストラン、コンビニエンスストアと、時流に乗ったビジネスに次々と進出して事業領域を広げてきました。近年では介護事業にも乗り出して成功を収めています。

旬さん自身は、父親の事業を継ぐことを2人の弟に任せ、学生時代は芸術家を目指し、3年間、ロンドンに留学しました。そしてその夢を諦めた後は、父親のコネで入ったデザイン関係の会社で働いています。自宅は両親の家まで車で10分程。結婚して子どもにも恵まれています。

父親のお金の使い方は豪快です。ブランド物でも高級ワインでも、自分が気に入ったら何でもすぐに買います。旬さんや弟たちは、父親の“ブラックカード”で洋服を買ってもらいます。旬さんは父親との買い物について次のように話しています。

「父親と一緒の買い物に財布は要りません。自分では買えない20万円くらいの服を買ってもらうことが多いです。正直に言って、自分も弟たちも実家にべったりだと思います。私の子どもが両親になついているので、頻繁に実家に顔を出します。いろんな意味で実家を頼っていると思います。顔も出さずにお金だけ出してもらうわけにはいかないですから」