毎月の赤字で貯蓄が目減りしていく恐怖

「明日死んでしまうかもしれないのですから、日々の生活の質を落とすつもりはありません。いまを楽しみながら、先にも備えたいのが本音です」

服部さんには3人の子どもがいるが、長男と次男はすでに独立しており、大学生の三男と持ち家であるマンションで暮らしている。家計はすべて服部さんが把握し、収支がどうなっているのか、貯蓄はどのくらいあるのかなど、夫はまったく把握していない。

服部さんの計画では、夫が定年後に転職すれば、定年前とほぼ変わらない給料が得られるから、老後生活は心配ないはずだった。株や金などちょっとした投資でつくった貯蓄もある。そのため、子どもたちに資産をどう残すかだけを考えていた。ところが、いまは毎月の赤字で貯蓄が目減りしていく恐怖を服部さんが1人で背負っている形だ。

「計画通り子どもに残せそうもないのがとても残念です」

「高校までは公立に進学してほしい」

服部家には子どもが3人いたため、「高校までは公立に進学してほしい」と伝えざるをえなかった。それがいまでも負い目になっている。だからこそ、まだ生まれてはいないが、孫の教育については金銭的なことで我慢させたくないと考えている。

「人生の岐路に立たされたときに、お金のために選択肢が限られてしまうのは悲しいことです。そうならないようにしてあげたかったのですが」

子どもたちの世代は、年金がもらえるかどうかさえわからない。そういった社会事情からも金銭的なサポートをしたいという思いが募るのだ。

自身の年金見込み額にもショックを受けた。

「お金に詳しい友人にねんきん定期便を見せて“これって何の金額?”と尋ねたら“それが給付額よ”と言われ、あまりの少なさに冗談だと思いました」

救いは住宅ローンも、各種保険料の支払いも夫の定年までに終わらせていることだ。

まだ先の話だが、服部さんはすでに介護や医療の充実した老人ホームを探している。

「息子やお嫁さんに面倒をかけるのも嫌じゃないですか。それなら、きちんとお金を支払って世話してもらったほうが気持ちは楽だと思うのです。入居費用も準備していますよ。いまのところ私の分だけですけど」

あとは夫の老人ホーム代を貯めるのみ
(撮影=岡村隆広)
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