「東京から野菜が消える」日は来るかもしれない

農業に従事している外国人の人数は、1995年には全国で約2800人だったのが2015年には約2万1000人と、20年で7.5倍にまで増えている。

現場を支える若手である20代から30代で外国人は14人に1人だと述べたが、これをさらに都道府県別に見てみると、「首都圏の台所」茨城県ではその割合が3人に1人にまで高くなる(29.64パーセント)。この他香川県では5人に1人、長野県では6人に1人など、7つの県で割合が10パーセントを超えている。

東京大学大学院農学生命科学研究科の安藤光義教授はこう指摘する。

「農業の担い手不足が深刻な中でも野菜を今と変わらずに作ろうとすれば、『人件費の安い海外で安く作って輸入する』か『作り手として外国人に来てもらう』かだ。しかし新鮮さや安心、安全が求められる生鮮野菜は輸入には向かない。外国から技能実習生が来てくれなければ、野菜の収穫量は大きく減り、価格も大幅に上がるだろう」

茨城県の農家の男性が言った「外国人がいなければ東京から野菜が消える」という言葉は、決して大げさなものではないのかもしれない。

「メロンを取るか、実習生を取るか」

外国人への“依存”が進む農業。そんな中、異変が起きている地域があった。

メロンの産出額日本一を誇る茨城県鉾田市では、近年、畑の風景が変化している。特産であるメロンの栽培をやめて、小松菜などの葉物野菜に切り替える農家が続出しているのだ。約600戸あったメロン農家はこの10年間で半減。一方、小松菜を栽培する農家は5年でほぼ3倍に増えた。

産地に異変をもたらしたのが「技能実習生」だというのだ。

「こんなに大勢の外国人を使うようになるとは思わなかった……」。こう話すのは、鉾田市で農業を営む50代の男性だ。

男性が初めて実習生を受け入れたのは14年前。長年「家族経営」でメロンを育ててきたが、両親が高齢となり体力的に農作業が難しくなったのがきっかけだった。若い実習生が入ったことで作業は楽になり、これなら両親がいなくてもメロン作りが続けていけると、当初は安心したそうだ。

しかしメロンは収穫が年に1、2回で、つまり収入があるのはその時期だけ。農作業が暇な期間も長く、その間は実習生の手が余ってしまう。収入がない時期、仕事がない時期にも毎月実習生に賃金を支払うのは、新たな負担となった。

メロンを取るか、実習生を取るか──。

「メロン作りを始めた親は、実習生を雇うのをやめて家族で栽培を続けようと、泣いて反対しました。でも、親がもっと年を取って働けなくなったら、私と妻だけでは農業が続けられなくなるのは目に見えていました」