羮に懲りて膾を吹く半面、喉元過ぎれば熱さを忘れるのが悲しい人の性である。周知の通り、かねてから問題視されていた米国住宅市場のバブルがついに弾けた。1980代末の日本のバブルや20世紀末ITバブルはほとんど教訓として生かされず、崩壊を食い止めることはできなかった。

住宅市場のピークアウトは2006年だが、住宅ローン証券化商品に伴う米欧大手金融機関の巨額損失が明るみになったのは昨夏以降だ。いわゆるサブプライム問題の勃発を機に、投資家は株式をはじめとするリスク資産から資金を引き揚げた。

対照的に、とめどもなく資金が流入したのが商品市場である。新興国の経済成長に伴う需給ひっ迫というシナリオに基づき、資源から穀物に至るまであらゆる商品価格が高騰したのも、すでにご存じのことだろう。

こうして、我々は景気の悪化とインフレの進行という2つの難題と直面することとなった。スタグフレーションまで達しているか否かはともかく、資産運用を取り巻く環境が劇的に変化しているのは間違いない。

『投資で浮かぶ人、沈む人』の著者である松田哲氏は、インフレと並行して円高も進行すると予測。今後2年間程度のうちに、1ドル=65円前後という水準もありうると読む。長く続いた円安トレンドの中で、多くの投資家はFX(外国為替証拠金取引)のドル買いポジションで大きな成功を収めてきた。しかし、松田氏の先読みが正しければ、この戦法はもはや有効ではない。

一方、金融恐慌が本格化し、ペーパーマネーのみに偏った従来の投資法は通用しなくなると言い放つのは、『マネーの未来、あるいは恐慌という錬金術』を書いた松藤民輔氏だ。彼は同書の中で、米ドルや米国株と逆相関する傾向が顕著な金が投資商品の中心になると断言している。

もっとも邪推をすれば、著者は金鉱山のオーナーで、ある種のポジショントーク(願望を込めた言い回し)とも捉えられる。資金の一部を金に投じることは、リスクヘッジという観点では確かに有意義だ。しかしながら、どのような時代が訪れようとも、運用の中核にはなりえない。

相場に上下の波はつきものだが、やはり運用の主役はつねに古典的な投資対象であろう。前述の松田氏はFXが専門ではあるものの、「今は株のほうが断然買いだ」と指摘している。個人的には、筆者もそれに同感である。総悲観で下げ続けてきたことによって、日本が世界に誇る優良企業までもが不当に割安な水準に放置されているからだ。

仮に金融恐慌が訪れようとも、経済活動が完全に機能を停止することはありえない。どういった逆境下でも利益を出し続ける企業は必ず存在するし、それらの株価は長期スパンで着実に上昇トレンドを描くものだ。

巷に蔓延する悲観論を尻目に、すっかり安くなった超優良株を買ってずっと保有していれば、いつか報われる日が訪れる――。『世界一シンプルな投資戦略』で山田勉氏が提唱するのも、こうした最もオーソドックスでシンプルな株式投資である。大多数の投資家が膾(超優良株)に必死で息を吹きかけている今こそが絶好のチャンスだろう。