予算達成は「ユーザーのため」にならない

これは「セールスに高いノルマと報奨金を与えて競争させれば、目の色を変えて一生懸命頑張る」という考え方に基づいている。要は、アメとムチである。昔はモノが足りず、作れば売れたので、この方法はそれなりに有効だった。しかしこの考え方は、完全に時代遅れ。売り込みをされる顧客の立場になるとわかる。ノルマを抱え目の色を変えた人から売り込みを受けて、買いたいと思うだろうか?

ホテル旅館予約サイト「一休」の榊淳社長は、ある雑誌のインタビューでこう言っている。

「毎月の予算達成なんてどうでもいい。予算が達成できないのは僕らの力量が足りないからであって、その力量不足は今月中に改善できるはずはない。だったら予算達成は諦めて、来月頑張ろう」

予算達成のために一休がメルマガを次々とユーザーに送っても、それで急に会社がよくなることはない。むしろ大量のメールは、利用者にとって迷惑でしかない。そして皮肉なことに、顧客は徐々に離れてしまう。一休は「ユーザーファースト」を徹底しているのだ。

「予算達成ありき」は「ユーザーファースト」ではない。「会社ファースト」の発想だ。

しかし現実には、多くの会社がセールスに販売ノルマを与えている。ノルマがあると人や組織を管理しやすいからだ。トップがノルマを決めて部門やセールス個人に割り振り、ノルマを達成した社員には売上の一部からトップの裁量で配分する仕組みなのだ。

「ご褒美」で頑張らせるのは、オットセイと同じ

しかし、ともするとノルマは、人のやる気を失わせてしまう。

「内発的動機付け」と「外発的動機付け」という考え方がある。「やりたいからこの仕事をする」という動機付けが「内発的動機付け」だ。一方で曲芸をするオットセイのようにご褒美目当ての動機付けが「外発的動機付け」だ。

「高いノルマと報奨金を与えれば、目の色を変えて頑張る」という発想は、「餌をあげればオットセイは曲芸をする」という考えと同じである。しかし、オットセイは餌がなくなると曲芸をしようとはしなくなる。同様にノルマと報奨金がなくなると、セールスは働かなくなってしまう。

逆に、内発的動機付けで仕事をする人は、ノルマや報奨金に関係なく仕事をする。

外発的動機付けがあることで、内発的動機付けが弱まるという実験がある。心理学者のエドワード・デシは、学生を相手にパズル解きのゲームをさせる実験をした。学生たちはゲームを解くと報奨金をあげるグループと、何も報奨金がないグループに分けられた。

両方ともゲームを解いたが、問題はその後の休憩時間である。無報酬グループは休憩中も熱心にパズルを解いていた。報奨グループは、休憩中はパズル解きをやめてしまった。報奨金という外発的動機付けで、内発的動機付けが弱まってしまったのだ。