「お題系」の動画があることで手軽に発信ができる

①手軽であること

ハードルを下げてユーザーからのシェアを活発化することが、UGM(“User Generated Media”の略、一般の人が発信者となるメディア)においての重要事項だった。例えばプロがつくったコンテンツを流通させるプラットフォームも数多く存在するが、TikTokはユーザーの投稿が場の盛り上がりを支えるという意味で、特にその傾向が重要になっている。

もともとTikTokといえば、音に合わせて踊るダンス系の動画が多いという印象があったが、いまはそれだけにとどまらず、「お題系」の動画も増えている。

例えば、「全力○○」――○○には笑顔、変顔などが入る――、「言いなり選手権」など、音楽内の指示にしたがっていろいろなことをやっていくと動画ができてしまうというものだ。ユーザー側がどれだけ手軽に発信できるかを突き詰めるとこのような形になる――という視点からもとらえられる。

若いユーザーがダンス動画をたくさんシェアする場として、「上手さ」よりも「かわいさ」が重視されていた点を想起しておきたい。ビジュアルコミュニケーションのトレンドは、ダンスのクオリティとは異なる軸での自己表現が求められているという論点にも接合される。

さらにさかのぼるならば、ニコニコ動画の時代、そこでは「踊ってみた」カルチャーが花開き、『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒダンスをみんなガチで踊っていた。ここでは、その作品への愛やハマり具合(コミットメント)を表現するという意味で、高いハードルを越えていくことが求められていた。その意味で、同じ「ダンス」であってもそこではまったく異なるものが掛け金になっている。

音とエフェクトがあればそれなりに上手にまとまる

そういった手軽さの流れに位置づけられるものとして、最近はグルメ系の投稿が増えていることも挙げられる。みんなで店に行くと、1、2年前であれば確実にインスタグラムを立ち上げてインスタ映えを意識した写真を撮っていたところが、現在はTikTokで動画を撮るというケースも増えてきた。

写真よりも動画で映えることを意識した伸びるチーズ系のメニューなど、動きのあるフードを出す店が増えているのも、こうした動きに即応した最近のトレンドだ。現に、中国本国ではTikTokは食べログのように使われている側面もあり、日本でもそのような使われ方が広まっていくことが想定される。食は多くのユーザーにとって共通の話題なので、シェアを考えるうえで大事な切り口だ。

インスタで映える写真を撮ることに比べると、写真の角度など気にしなくても音とエフェクトがあればそれなりに上手にまとまるという意味で、TikTokで発信することのハードルの低さをとらえることもできる。

映像に占める音の重要性は大きい。それをアプリが手助けしてくれることによって情報量は増し、目の前の体験もリッチなものとしてシェアすることができる。

それゆえ、ユーザーにとっての有限な「動画を観る時間」が、この両者で争奪されるような構図も次第に鮮明化するだろう。