基地は最大10メートル超の浸水が予想されていた

いわゆる「整備新幹線」である北陸新幹線は、1997年開業の高崎—長野間を旧日本鉄道建設公団(鉄道公団)が、2015年開業の長野—金沢間を独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)が建設し、施設をJR東日本とJR西日本に貸し付ける形で運営されている。

1編成あたり30億円以上の新幹線車両が10編成も水没するという前代未聞の事態に、車両基地の場所の選定に問題があったのではないか、事前に車両を避難させることはできなかったのか、という指摘が相次いでいる。

例えば東京新聞は18日、車両基地のある場所は長野市のハザードマップで最大10メートル以上の浸水が予想されていたことを指摘している。同紙の取材に対し、車両基地を建設した鉄道・運輸機構の担当者は、供用を開始した1997年にはハザードマップができていなかったとした上で、「長野駅から近く、広い平たん地があり、用地買収に支障が少ないことを考慮して建設地を選定。長野県が作製した洪水浸水被害実績図を参考に、約2メートルの盛り土をした」とコメントしている。

リスクは東海道、山陽、九州各新幹線の基地にも

朝日新聞デジタルは18日、1998年8月の「那須水害」で線路設備が冠水した経験がある東北新幹線の小山新幹線車両センター那須電留基地では、浸水を防ぐために事前に車両を避難させていたと報じている。車両基地ごとに伝承されてきた経験が水平展開されていなかったとすれば、JRの対応に改善の余地があることは間違いないだろう。

またNHKは17日、JR各社の新幹線の車両基地、全18カ所中7カ所が洪水による浸水想定エリアにあるという独自調査の結果を報じている。

1メートル以上の浸水が想定されているのは、東海道新幹線の「鳥飼車両基地(大阪府)」「浜松工場(静岡県)」、山陽新幹線の「博多総合車両所広島支所(広島県)」、九州新幹線の「熊本総合車両所(熊本県)」の4カ所で、鳥飼車両基地は敷地の一部で5メートル未満、浜松工場は、敷地の大部分で3メートル未満の浸水が発生するおそれがあるという。

鉄道建設時共通の悩みが、広大な敷地を必要とする車両基地の立地である。市街地で用地を買収すると建設費が跳ね上がってしまうため、手に入れやすい土地の中から選ぶしかない。そしてそれは、往々にして海や川沿いの地盤や水はけが悪い土地であったりする。車庫の水没は今回に限ったレアケースではなく、鉄道事業者にとって普遍的な事業継続リスクなのである。

東海道新幹線が水害の翌朝も通常運転できたワケ

前述の「那須水害」のように、新幹線車両基地の浸水被害は過去にも発生している。その中でも最大規模の事象が、1967年の大阪府北部を中心とする「北摂豪雨」による東海道新幹線鳥飼車両基地の浸水被害であった。

1967年7月9日深夜、16時から24時までの6時間で187ミリも降り続いた集中豪雨によって、鳥飼車両基地の北に沿って流れる安威あい川の堤防が決壊し、濁流が車両基地に流れ込んだ。翌日の朝刊は安威川から流れ込んだ水で浸水した車両基地の写真を一面で伝えた。