有能な若手人材ほど「今の高い報酬」を求める

確かに、少子化による働き手の不足によって公務員でも若手の人材確保が難しくなっているのは事実だ。かつて、東京大学法学部を卒業したエリートは霞が関に就職するというのが当たり前だったが、今やトップ人材は官僚にならない。外資系のコンサルティング・ファームや金融機関などが就職先として人気だが、いずれも若いうちから高給が支払われる。また、霞が関の各省庁に就職しても、数年で辞めていく若手公務員が少なくない。期待と現実のギャップで2~3年で辞めるのならともかく、7~8年たってこれから働き盛りという年頃で辞めていく人が少なくない。中堅・若手の相次ぐ退職に各省庁は頭を悩ませている。

そのひとつの理由が、仕事量に給与が見合っていないことだと言われる。公務員の俸給制度は勤続年数に重点が置かれているため、若手の給与は低い。その代わり、基本的にクビになることはないし、将来にわたって収入が増えていくので「安定」しているというわけだ。だが、民間企業の間でも終身雇用が崩れつつある中で、将来にわたる安定を求め、「今は苦しくても将来は安泰だ」と考える若者は着実に減っている。とくに有能な人財ほど、将来よりも今の高い報酬に惹かれる。人手不足が深刻化する中で、霞が関は有能な若手人材の草刈り場になっている。

雀の涙のような引き上げでは不十分

本当に人事院が、有能な若手人材の確保を狙うのならば、雀の涙のような賃金引上げで効果があると考えるのは不十分だろう。

実は、自民党の行政改革推進本部が、「公務員制度改革の徹底について」という意見書を2019年3月8日に出している。そこでは、2008年の公務員制度改革基本法に明記されながら、いまだに実現していない改革を早急に実行することを求めているのだが、その柱が、能力・実績主義の徹底による若手官僚の抜擢の仕組みの導入なのだ。

意見書には、①幹部職員に求められる役割を明確に示すこと、②民間からの幹部ポストへの登用の拡大、③抜擢人事に不可欠な「特例降任」の実施、④能力・実績主義の人事評価の徹底――が本来実行されるべき事として明記されている。そのうえで、「能力・実績主義を一層貫徹するために、給与制度の見直しこそ最重要課題である」と結論付けている。

要は、定年までの雇用を前提にした年功序列の賃金制度ではなく、優秀ならば若手でも幹部ポストに抜擢し、比較的高い給与を支払う給与制度に変えるべきだとしているのだ。ちなみに、降格が必要なのは、ポストによって定員が決められている公務員の場合、降格ができなければポストを空けることができず、若手や民間人を抜擢する事ができないのである。