しかし、家庭用については東京電力の「オール電化」攻勢に押されている。

「オール電化が一方的に広がっていくのは、たぶんよいことではありません。単純な言い方をすれば、瞬間ガス湯沸かし器で、必要なときに必要なだけのお湯をつくるというガスならではの長所がある。厨房、お風呂、暖房と家庭におけるエネルギー供給の主役は、照明以外の分野ではガスが主役だと確信している」という。家庭用の燃料電池であるエネファームという武器を手に、電力に対する対抗意識が、言葉の端々に出る。

ガスのようなインフラ事業は、日々、安全に安定供給を確保するという同じ仕事の繰り返しのように映る。だが、岡本は自らの仕事を通して、「先例にとらわれてはいけない」ことを学んだ。1989年、原料部にいたときに、北アフリカのアルジェリアから、はじめてLNGを輸入したのだ。当時、LNGは太平洋と大西洋マーケットでは、大西洋の価格が安かった。だが、日本のLNGの調達は東南アジアが中心で、大西洋マーケットのアフリカから輸入する発想はなかった。

「ブレークスルーを起こすためには、多少のリスクがあっても、強引にいくべきところは、いかなきゃいけないと感じました」

今後20年のエネルギー産業は、ある程度予測できるが、それ以降は岡本にもわからない。街のガススタンドに天然ガスから水素を取り出す装置があったり、燃料電池車や家庭用燃料電池が主役となる世界になるかもしれない。

その意味で、エネルギーの体系そのものが、まだまだ大きく変わりうる余地を残している。そうだとすれば、岡本が東京ガスに残すべきは、「先例にとらわれない」という新たな遺伝子なのだろう。(文中敬称略)

(門間新弥=撮影)