働き方改革の生産性は19世紀の発想だ
ドラッカーは生産性を広くとらえ、そのうち労働生産性を「知識労働生産性」と「肉体労働生産性」にわけて整理します。世間一般に論じられている労働生産性は「肉体労働生産性」です。それは19世紀の産業を前提とした肉体労働生産性であって、有効な設備投資によって高めることができます。たとえば、1900年代の初頭、フォードが小型飛行機並みだった自動車の売値を大幅に引き下げることができたのは、機械化とオートメーション化を推し進めることで、肉体労働生産性を大きく向上させたからでした。
ところが、現代の企業では、設備投資はそのまま労働生産性の向上に繋がりません。いい例が病院です。高額な医療機器を導入したため経営が悪化した病院は珍しくはありません。その理由は、設備投資が医師の労働生産性の向上に貢献しないからです。
ドラッカーはこの点に注目しました。そして、今後は知識労働生産性の向上に努めるべきだ、と訴えます。
「ブルーカラーが担ってきた『労働集約的』な仕事が重みを失い、ホワイトカラーが中心をなす『頭脳労働』的な仕事、すなわち知識労働がますます重要性を増してきた」(『ドラッカーの遺言』講談社)
つまり、肉体労働生産性を向上させる手法では、知識労働生産性は向上しないのです。では、知識労働とは何か。ドラッカーの説明はこうです。
「もっぱら仕事の質で勝負することに特徴がある。肉体労働はしない。彼らはきわめて高度の専門知識を有して、組織の中で他の専門家と共同して仕事をおこなう」(同上)
「知識労働者の生産性」とは何か
そして「知識労働者」はさらに「純粋な知識労働」「テクノロジスト」「サービス労働」に分類し、それぞれの生産性について持論を展開します。
「純粋な知識労働」はもっぱら仕事の質で勝負することに特徴があります。「肉体労働はしない。彼らはきわめて高度の専門知識を有して、組織の中で他の専門家と共同して仕事をおこなう」仕事です。これには、先端医療や新薬の研究員、自動運転やAIの技術者、大学の教授、経営戦略や事業計画の策定する経営者や経営企画担当、アパレル企業なら独創的なデザインをおこなうチーフデザイナーが該当します。