「ふるさと納税で困っています」

神奈川県川崎市は市民向けのパンフレットに「ふるさと納税で困っています」と題したコラムを掲載した。それによると、同市では他の自治体にふるさと納税を行う市民が増加し、市税が49億円も流出してしまった。これは、ふるさと納税の負の側面といってもよいだろう。

本来、返礼品を提供することの根本的な目的は、寄付への“お礼”だったはずだ。それに加え、農産・海産物などの提供による地域の魅力発信や、体験型観光需要の創出などを通した話題作りなどのためにも、返礼品を提供する意義はある。

これに対して、他地域の産品や家電、ギフト券などを返礼品にして寄付を集めようとする発想は、本来の枠組みから逸脱してしまっているといわざるを得ない。なお、わが国の地方財政法では「地方公共団体は、(中略)他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行つてはならない」と定めている。

6月、総務省は寄付額の3割以下の地場産品を返礼品として認めることを決め、過度な返礼品競争を是正しようとしている。その一方、泉佐野市などは地方分権一括法に則り、「国と自治体は対等であり、総務省は助言を行うことはできても、規制はできない」と反発している。現時点で、国と地方の意見の対立がどう解消されるか、特定の見解を示すことは難しい。

本来の趣旨にもとづいた制度運営が必要

政府は、“地方を応援する”という本来の趣旨に立ち返り、ふるさと納税制度の運営を修正していかなければならないだろう。

ふるさと納税制度のアイデアそのものは、わが国が地方創生を進める上で重要と考える。少子化、高齢化、人口減少の3つが同時に進む中、地方から都市部へ移住する人が増えてきた。地方経済の維持には、各自治体が企業と連携して産業基盤を整備するなどし、持続的に地域の活力を高めようとすることが大切だ。

ふるさと納税は、こうした取り組みを支える枠組みとして創設された。納税者が各自治体の取り組みを評価し、応援したいと思うところに寄付を行う。それを用いて、自治体は自らの力で成長を目指す。さらに財源を確保するために自治体は、企業などと協力してより良いアイデアやモノを生み出そうとしなければならない。

各地の企業がより良いモノなどを生み出し、返礼品を通して消費者がそれを評価し、需要が喚起されるという好循環が生み出されれば、地方の経済活動は活発化する可能性がある。ふるさと納税には、地方創生を後押し、さまざまな展開に波及する側面があるといえる。