雇用や給与が抑制され、経済の活性化が妨げられる
そのうえ問題なのは、現在の外形標準課税が、企業が従業員へ支払う給与が増えれば増えるほど、税負担も増える仕組みになっているということです。これでは企業は課税を抑えるために、雇用や給与を抑制しようとするでしょう。人件費を抑制するために、正規雇用ではなく非正規雇用を増やすでしょうから、このような外形標準課税は経済活性化に逆行するとともに、安倍政権の賃上げ政策とも矛盾することになってしまいます。
また、「欠損金の繰越控除制度」も見直すとしています。これは、ある事業年度において益金よりも損金のほうが多かった場合、益金を超える部分の「欠損金」を翌年度以降に繰り越し、将来の所得から控除する制度です。過去の損失を補填しない限り、原理的に所得は生じないのですから、繰越控除の縮小は、負担能力への配慮を破壊するような措置だといえるでしょう。
政府税調は安倍内閣の下請け機関に成り下がっている
いまの政府税調をみていると、大原則である「税の応能負担」を軽視して、公的サービスから受ける利益に応じて課税するという、あいまいな「応益課税」なる議論を振り回すなど、何でも取れるものから取り立てようという徴税者本位の発想が露骨に表れています。外形標準課税の拡大がその象徴です。
そもそも政府税制調査会は、私も特別委員として審議に参加したこともありますが、特定の政権や政党はもとより、あらゆる関係団体の利害とは無関係に、租税の原理・原則に即して、「理念としてのあるべき税制」を議論し、税制の本質的な課題について答申するのが任務でした。
ところが現在の政府税調は、安倍内閣の政策の理屈づけ、もっともらしい論理構築を請け負う下請け機関に成り下がっているのです。その証拠は2014年に発表された「法人税の改革について」という文書にあります。
〈本年1月、安倍総理大臣はダボス会議において、「法人にかかる税金の体系も、国際相場に照らして競争的なものにしなければなりません」と述べられた。今般、政府税制調査会においては、この総理の発言を端緒として国・地方の法人税の改革に着手した〉
つまり、首相の意向ありきで、それを実現するために税制を変更しようというのです。こうした姿勢のどこに、あるべき税制、公正な税制を構築しようという気概があるのでしょうか。猛省を促したい。
課税ベースの再検討は、本来、あるべき税制の姿に戻すことであり、それはタックス・イロージョンやタックス・シェルターをなくすことから始めるべきです。政権の意向を実現するために、場当たり的に課税ベースを拡大させてしまえば、法人税制は崩壊してしまいます。