2019年9月20日に開幕したラグビーW杯日本大会。これまでラグビー伝統国でしか開催されてこなかった祭典は、なぜ日本にやってきたのか。世界とのタフな交渉にあたったメンバーたちの真実の物語。

世界との交渉秘録

「おかしいじゃないですか――」

森喜朗は、怒気を含んだ日本語でシド・ミラー国際ラグビーフットボール評議会(IRB、現WR)会長に語りかけた。

同席していた眞下昇は、ややたじろぎ、森先生、何を言うつもりだろうかと、少しばかり案じた。傍らで通訳として臨席していた徳増浩司は、どのように訳して伝えるべきかと困惑しつつ、慎重に言葉を選んで英語を発した。

森は、遠慮せずにつづけた。

「仲間うちでだけボールを回し合っているようでは、ラグビーはいつまでたってもグローバルなスポーツにはなりませんよ」

誰がどう見てもイギリスを中心とする不公平かつ不平等であるIRBの運営に憤り、投票権の偏った構成を念頭に、ラガーマンらしい比喩で難じた。