宗教法人が「マンション経営」せざるをえない理由
日本の寺社もかつては、企業の創業者や地域の有力者が金品を寄進し、それで維持されてきた。しかし、そんな企業も創業家が経営から退き、サラリーマン社長に代替わりして、状況は一変した。
たとえば建築物の建て替え事業などの際、寺院や神社が企業に寄付を募っても、「宗教法人に金を出すなんて、社内稟議が通らない」「株主に納得のいく説明ができない」「なぜ企業が神仏を敬わなければならないのか」などとして、断られるケースが相次いでいる。
そうして、宗教法人側が苦肉の策として講じるのが「マンション経営」や「移転」である。
世界遺産で知られる京都の下鴨神社では2015年の式年遷宮事業で、社殿の建て替えを計画。しかし、企業の寄付金が思うように集まらずに、50年の定期借地権を設定して分譲マンションを建築。その借地料収入でなんとか事業をやり終えた経緯がある。
あるいは、多額の資金が必要になった際、その土地を売却し、郊外により安い土地を求め、差益を事業費に充てる手法も最近では増えてきた。近年では京都市の中心、上京区にあった出世稲荷神社が社殿の老朽化に伴い、境内地を売却。郊外の左京区大原に引っ越した。跡地にはマンションが建設された。
京都では、ほかにも複数の名だたる寺院・神社が境内地にマンションを建てたり、移転したりするケースが相次ぐ。そうした状況に国や行政は「政教分離」を理由に、手出しをすることはできない。京都の場合、企業や個人の寺社を支える意識が薄れた結果、景観を損なってしまうというジレンマに陥っているのだ。