現場のルールが法律に優先する日本
日本の組織はどうか。学校を例にとろう。どの学校も、その学校だけにあてはまる規則(校則)を決めることができる。スカートは膝上10センチまで。髪は染めるのは禁止で、黒。地毛が黒でないひとは、地毛証明書を出させられたりする。あるいは、黒く染めるように指導される。
服装や髪の色は、本人の人格や自由に属するもので、学校がルールで規制することになじまない。日本の学校にいると、「法の支配」ではなく、「所属する組織が恣意的に決めるルールに従います」、つまり、4行モデルの(4)を身に付けていく。
あるメーカーの検査部門。製品検査のやり方が、法令で決まっている。でも、人手不足や納期の関係で、現場のみなで相談し、法令に違反して検査をパスさせることにする。配置転換で現場にやってきたひとは、違反に気がづいても声をあげることができない。現場のルールが法律に優先するからである。
日本の組織は、こうした闇ルールに満ちている。
「法の支配」を社会の行動原理に取り込め
日本の企業に就職すると、職務の説明(ジョブ・ディスクリプション)がない。雇用契約書もない場合が多い。辞令が一枚、渡されるだけである。どういう仕事を遂行すればいいのか、誰にも説明できない。どの現場も、暗黙のルールに満ちていて、それを全員が一様に意識しているわけでもなく、説明もできないからだ。「だんだん慣れてください」と言われるだけ。
欧米の契約文化に慣れたひとが、日本の企業に就職すると、びっくりする。すぐ辞めてしまう場合も多い。
日本の企業が現地法人をつくったり、合弁企業をつくったりすると、最初にぶつかるのは、双方の組織文化がまるで違う、という問題だ。ヨーロッパ、アメリカ、中国、ベトナム、メキシコ……、どこが現地であるかによって、解決は異なる。そして、その社会の背景を、猛烈に勉強しなければだめだ。
日本企業が現地法人をつくると、台湾総督府か朝鮮総督府か、満洲国のようになってしまう。日本ルールと本社の意思決定を、トップダウンで、現地の組織に押しつける。このやり方では、グーグルやアップルのような、世界的な巨大企業を動かすことはできない。
グローバル社会の標準的な行動様式は、「法の支配」である。これは、西欧キリスト教文明が、グローバル社会に残してくれた、置き土産だ。
この貴重な社会資産を、日本社会の行動原理に取り込んでいくこと。これが、これからの100年、日本が世界に飛躍するための土台になる。