ストレートで卒業できる学生は3分の1

話を戻そう。このようなシステムが始まったのはいつからだろうか。ハンガリーは2006年だ。2018年までに106人、2019年の夏には18人が卒業した。71人が日本の医師国家試験に合格し、合格率は81%だ。

同じような仕組みは他の東欧諸国にも存在する。スロバキア、チェコ、ブルガリアなどへの医学部進学を斡旋あっせんしている組織もある。学生数はハンガリーほど多くはないが、合計して70人程度の日本人が学んでいる。海外の医学部進学と言えば、アメリカを思い浮かべる方が多いだろう。吉田さんと会うまで、私もそうだった。医学教育のグローバル化は、すさまじいスピードで進んでいる。

東欧の医学部の教育システムは日本とは違う。入学は比較的容易だが、進級はとても厳しく、ストレートで卒業するのは3分の1、留年が3分の1、残りは退学するそうだ。吉田さんは「帰国子女ではない私にとって、英語で授業を受けるのは、とてもストレスだった」と言う。

求められるのは真面目に学ぶ「やる気」

東欧と日本では学生の選考システムが違う。入学しさえすれば、よほど怠けない限り卒業できる日本の大学と違い、入学は比較的容易だが、6年間をかけて選抜していく。

日本の医学部は幼少時から塾に通い、名門進学校に進学しなければ、受験を突破できない。親の収入や家庭環境に影響される。千葉県の公立高校を卒業した吉田さんにとって、ハードルが高い。

東欧は違う。求められるのは大学時代にいかに真面目に学ぶかだ。求められるのは本人のやる気だ。東欧の医学部は吉田さんに向いていた。

医療ガバナンス研究所には、多くの若者がやって来る。その中で彼女の存在は際立っている。どんなことを頼んでも、「ぜひ、やらせてください」と言う。

一般人向けの脳卒中の解説を頼んだら、すぐに医学書を購入し、翌々日には初稿を送ってきた。若手医師の研究を手伝うこともある。膨大なデータを、即座に整理してくれる。吉田さんは元からバイタリティーがあったのだろうが、ハンガリーで鍛えられ、さらにパワーアップした。

故国を離れ、異郷で医学を学ぶメリットは、医学知識の獲得だけでない。苦労を重ねることで人間として成長する。古くから言われているように、若者には旅をさせなければならない。