日本の私大医学部や米国の名門より圧倒的に安い

授業は英語だ。吉田さんは、「日常会話程度の英語ができて、日本の高校の理科を履修していれば入学には問題ない」と言う。

学費は年間170万円程度。6年間の総額は約1000万円だ。日本の私大医学部は、もっとも学費が安い国際医療福祉大学でも6年間で1850万円を要する。近畿大学、聖マリアンナ医科大学、岩手医科大学など3000万円を超えるところも珍しくない。

ハーバード大学など米国の名門大学の場合、メディカル・スクールを卒業するまでの学費は5000万円を超える。奨学金制度が充実しているが、必ず採用されるとは限らない。

ハンガリーは物価も安い。生活費は月に10万円程度だ。学費も含めて、年間の費用は約300万円。日本の私大医学部や米国の名門医学部と比べて、圧倒的に安い。これならサラリーマン家庭でも何とかなる。

さらに、日本の医師国家試験に合格すれば、日本で診療することも可能だ。医師になることを目指すなら、合理的な選択である。

厚労省が規制の必要を示唆

彼女がセンメルヴェイス大学を知ったのは、「ハンガリー医科大学事務局(HMU)」という団体を介してだ。新宿に事務所があり、受験指導、VISA取得から、住居探し、日本の医師国家試験受験までサポートしてくれる。

余談だが、医学界は利権が渦巻く世界だ。このような流れを快く思わない連中もいる。今年7月、中央社会保険医療協議会(中医協)で、佐々木健・厚生労働省医政局医事課長が、「海外の医学部卒で医師になるルートについて議論していく必要がある」と規制の必要を示唆した。人口減が進むわが国で、将来的に医師は余るから、海外の医学部を出た学生が日本の医師免許を取得するハードルを高めようという主旨だ。この発言は東欧で学ぶ医学生に不安を与えた。

実に情けない主張だ。日本で医師が余ることは当面考えにくいし、将来的に余れば、中国などアジア諸国で診療すればいい。さらに、世界中で高等教育の水平分業が進んでいる現在、「欧州の医学部卒業は信頼できない」という規制は理不尽だ。日本医師会など業界団体の反対に対して、佐々木課長が「顔を立てた」というのが実態だろう。

厚労省も抜かりない。HMUの理事には厚労省元医政局長で、「医系技官のドン」と称された岩尾總一郞氏も名を連ねる。佐々木課長と岩尾氏は、どのように話し合ったのだろうか。