ビザ更新を拒まれたブータン人留学生のダワ君

留学ビザは、半年から1年程度で更新する必要がある。その際、留学生のアルバイトとして認められた「週28時間以内」を超える違法就労を入管当局に指摘され、ビザが更新不許可となる留学生が急増している。当局が違法就労への監視を強めている影響だ。

撮影=出井康博
失効して穴の開けられたダワ君(仮名)の在留カード

違法就労した留学生たちにも罪はある。しかし、「週28時間以内」のアルバイトでは留学生活を送れないと分かって彼らを受け入れ、都合よく利用してきた日本側の責任が問われることはない。

9月12日、1人のブータン人留学生が成田空港から日本を離れた。約2年前の2017年10月、日本語学校へ留学するため来日し、今年4月からは千葉市内の専門学校に在籍していたダワ君(仮名・20代)だ。彼も「週28時間以内」を超えて働いていたため、留学ビザが更新されなかった。こうして帰国に追い込まれるブータン人留学生が、最近になってとりわけ目立つ。

なぜ「ブータン人」なのか。ブータン人留学生問題について少し説明しておこう。

「幸せの国」なのに若い失業者があふれている

ブータンは「幸せの国」として知られる。しかし、失業が社会問題となっていて、大学を出ても職に就けない若者で溢れている。そうした若者の失業対策として、ブータン政府は2017年に日本への留学生送り出しを始めた。

「日本で日本語学校を卒業すれば、大学院への進学や就職が簡単にできる」

そんな宣伝にかれ、「学び・稼ぐプログラム」(The Learn and Earn Program)と名付けられた制度に若者が殺到した。ブータンは人口わずか80万弱の小国だが、17年からの1年間で700人以上の若者が日本へ留学していく。

「学び・稼ぐプログラム」にはモデルがある。ベトナムなどで2010年代前半から巻き起きた日本への“留学”を装った「出稼ぎブーム」だ。そのモデルがブータンにまで広まった。

ただし、同プログラムで来日したブータン人には、ベトナムなどの“偽装留学生”とは違いがある。“偽装留学生”の目的は、勉強よりも出稼ぎだ。それがブータン人に限っては、日本で勉強とアルバイトが両立でき、大学院への進学や就職も叶うと信じ来日していた。自国での情報が乏しいため、ブータン政府や留学斡旋あっせん業者による宣伝を鵜呑うのみにしてしまった。

“偽装留学生”が出稼ぎ目的の「確信犯」であるのに対し、ブータン人留学生の場合は、国にだまされて来日した「被害者」なのである。