「大人のADHD」の正体は「愛着障害」

「大人のADHD」は、気分障害、不安症、依存症、パーソナリティ障害などが、間違って診断されたものか、未知の障害の可能性も示唆された。その正体は、さまざまな病名の寄せ集めに過ぎないのだろうか。

だが、さまざまな病名の根底には、共通する一つの本質的な問題があると思われる。それは、Tさんが苦しみ続けている本当の病根、すなわち養育者との離別や、養育者からの身体的、心理的虐待、ネグレクトによって生じた愛着障害である。

愛着障害は、頻度に男女差がないという点、さまざまな精神的合併症や困難を抱えやすいという点、神経レベルの障害がさほど重度でないにもかかわらず、生活での困難が非常に大きいという点、つまり障害と生きづらさの乖離かいりという点でも、「大人のADHD」と呼ばれているものと、よく一致する。

そして、実際に臨床で、「大人のADHD」を疑って来院する人たちの生活史を見ていくと、彼らが親との関係に苦しみ、虐待的状況に置かれてきたことが明らかとなることが、非常に多いのである。

ここ何十年かの「常識」が崩されつつある

これらすべての事実は、彼らが苦しんでいるものの正体が、養育要因に起因する愛着障害に由来することを、強く示唆しているだろう。

岡田尊司『死に至る病』(光文社新書)

だが、そうした結論をうすうす感じていても、専門家ほど、そのことを口にすることは許されなかった。そこには、ぶ厚い障壁が立ちはだかり続けてきたのだ。

その障壁とは、ADHDは遺伝要因が七、八割にも上る、先天要因の強い神経発達障害だという定説であり、不注意や多動といった問題に、養育要因は無関係だというここ何十年かの「常識」だ。

実際、ADHDの養育要因について論じたりすれば、嘲笑とバッシングを受けた。多くの専門家たちが、この三十年以上、ADHDに養育要因など関係しないと言いきってきたのであるから、それをいまさら覆されるわけにはいかないのである。

だが、その牙城が、今世紀初めぐらいから徐々にほころび始め、最近では崩壊がだいぶ進んでいる。音を立てて崩れ落ちる日も近いかもしれない。

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