経営者トップから、文壇、芸能界、スポーツ界、一流の男たちを夜ごとにもてなす銀座の高級クラブのママたち。いかに心地よい時間を演出するか、日々磨いてきた気配りの技術を、3人のママに聞いた。
片方の目だけ見れば疲れない
銀座には、長い年月の中で醸されてきた文化と歴史が息づいている。だからこそ「いつかは銀座のクラブに足を運びたい」とビジネスマンなら考える。単に「銀座で飲めるまでになった」という満足感だけでなく、自分自身のステータスにつながるからだろう。
ただし、どのクラブでもいいわけではない。やはり、老舗あるいは名門と評価される店こそがふさわしいはずだ。そこには来店した客を自然に“紳士”に変えてしまう雰囲気が漂っている。そして、その空間を見事に演出しているのが“ママ”たちにほかならない。
老舗といえば、銀座通の人たちが必ずといっていいほど名前を挙げるのが文壇バー「クラブ 数寄屋橋」。開店は1967年。世の中は高度経済成長の真っ只中。以後、半世紀以上にわたって店を守り続けてきたのは熊本出身の園田静香ママ。故郷を旅立つに当たって父親が2つの言葉を贈ってくれた。
ひとつは「人間はどんな偉い人でも皆同じ。それを肝に銘じなさい」。そして、もうひとつは「人と向かい合って話すときは、片方の目だけを見なさい」だ。生き馬の目を抜く銀座でクラブ経営するのだから、何があってもおかしくはない。相手の片方の目だけを見ていれば、疲れない。心穏やかでやさしさも出せる。喧嘩になりそうになっても、相手が先に疲れて目をそらす。