言語の運用力を共通の尺度で評価する枠組み

そのように目的が違い、内容もバラバラな民間試験を認定して、どれを受けてもいいという仕組みにしたときに、どうやって評価をするのかが問題となります。そこで文科省が持ち出したのがCEFR(セフ・アール、ヨーロッパ言語共通参照枠)です。

CEFRとは、欧州評議会が複言語主義(※1)を具体化するため、いろいろな言語の運用力を共通の尺度で評価できるように作った枠組みのことです。40年近くかけて研究グループが取り組み、2001年に公表されました。今では日本語を含む世界50言語が対象になっています。「〜ができる」(Can Do)を示す記述文で評価するので、スコアなどの数値ではありません。レベル分けは2001年版CEFRでは「基礎段階の言語使用者A1・A2」「自立した言語使用者B1・B2」「熟達した言語使用者C1・C2」です。

※1:母語以外に2つの言語を学んで相互理解を深め、平和な社会を作るという理念

大学入学共通テストでは、民間試験が各々のスコアをCEFRの6段階に対応させて申告することになっていて、入学にあたっての基準は各大学に任されています。ところがCEFRでは、どういう記述文をどの段階に入れるかが例示されているだけで、「共通参照レベルは形式を変え、精度を変えて使ってもよい」とされていて、各国の教育機関はそれぞれの教育目的に応じて自由に決めています。

ヨーロッパがびっくり仰天した日本の大学入試

撮影=原 貴彦
立教大学名誉教授の鳥飼玖美子氏

【三宅】つまり、国際基準どころかヨーロッパ基準でもなく、あくまでも目安だと。

【鳥飼】そうです。そのくらい柔軟な分類なので、ヨーロッパで昨夏、「日本ではCEFRを数十万人以上が受ける大学入試に使う」と言ったらみんなびっくり仰天していました。

ところが、この6段階は、「大ざっぱすぎる」という批判が多かったため、欧州評議会は2018年2月公表の増補版で、11段階に増やしてしまいました。しかも増補版では、「CEFRは、外国語教育改善のために策定されたものであり、標準化に使うツールではない。調整したり監視する機関はない」とわざわざ明記しています。

【三宅】そうですか。

【鳥飼】「4技能」は最近の日本の英語教育のうたい文句ですが、外国語教育分野では昔から言われてきたので、新しいものではありません。昨年、欧州評議会は、「伝統的な4技能モデルは、コミュニケーションの複雑な現実を捉えるには不十分だ」と増補版で宣言しました。「読む」「聞く」「書く」「話す」に加えて、「話し言葉のやりとり」と「書き言葉のやりとり」、さらに「仲介」を提案して、4技能が7技能になったのです。