空腹の裁判官は厳しい判決を下す
その論文では、専門家の判断が必ずしも正しいとは限らないという主張の根拠として、裁判官の判決内容とその判断を下すことになった直接の理由の他に、意外な媒介変数がかかわっているという例が紹介されていた。実刑判決か執行猶予かの判断は、実際の更生可能性ではなく、裁判官の血糖値が影響していると思われるという内容である。
朝一とか昼一の裁判官の気力と体力が充実していると思われる時間帯で出された判決は、更生してくれるであろうという前向きな判断が多かったのに対して、空腹で血糖値が下がっていると考えられる時間帯、例えばお昼休み直前や夕方の帰宅前に出す結論は、厳しめの判決になっていたという。誤解を恐れずストレートに言うと、裁判官のおなかの空き状態が、被疑者の運命を決めてしまうということである。
すなわち、人間の意思決定とは、こんなにも様々な要素に左右されやすいものであり、裁判官のような法律の専門家であっても、その例外ではないということである。
「観察と経験則」は役に立たなくなっている
経営の現場でよくHiPPOsという言葉が使われる。これは、highest‐paid person opinions(もっとも給料の高い人の意見)ということである。
使えるデータが希少で、またデータを入手して、加工するのに時間とお金がかかる時代には、HiPPOsはそれなりに意味があったと思う。いろいろな変数間の関係を、観察と経験則からパターンとしてつかんで決定を下すことができれば、他社に対する圧倒的な競争優位を構築することができる。
しかしながら、アナログからデジタルへのシフトが進む現代では、司法の世界でもAIが使われ始めている。膨大なケース事例から傾向を出すのは、人間よりも機械のほうが得意なのは言うまでもない。できれば裁判官にも、データ解析をAIにさせて、客観的な更生率をベースに判決を出してもらいたいものである。