言い換えると、「昭和の遺産」を食いつぶして延命を図ることに汲々きゅうきゅうとする「平成」にあって、「暇つぶし」に興じる〈ひろゆき〉は、途中までは適合しながらも、結局のところ不調和を起こしているのではないでしょうか。

より具体的に言えば、〈ひろゆき〉は「敵を作りやすい」と自覚しながらも、2ちゃんねるからもニコニコ動画からも、追い出されてしまいました。ここにこそ、「昭和の遺産」と「暇つぶし」の差異があるのではないでしょうか。

なぜ、ネットの世界から姿を消しつつあるのか

平成21年(2009年)1月2日付の自らのブログで、2ちゃんねるをシンガポールのパケットモンスター社に譲渡し、自身は、「管理人」ではなく、「単なる1ユーザー」になったと明かし「2ちゃんねるを捨てた」とすら述べました(*11)。しかしながら、平成25年(2013年)に至っても、2ちゃんねるの広告収入を得ていました。

ところが、平成26年(2014年)、金銭トラブルから、内部分裂が表面化し、〈ひろゆき〉は元々の「2ch.net」からは追い出されてしまいます。そして、独自に「2ch.sc」という類似サイトを立ち上げます。平成27年(2015年)9月には、この「2ch.net」ドメインの所有権をめぐって訴訟を提起したことを明かしています(*12)。また、英語圏最大の匿名掲示板4chanの管理人にも就任しています(*13)

平成21年(2009年)時点では、裁判回避のために表舞台から姿を消していたにすぎませんでした。けれども、その後は、訴訟を起こして取り戻さなければならないほど、〈ひろゆき〉は、2ちゃんねるから離れてしまっています。

さらに、ニコニコ動画との関係も切れています。

〈ひろゆき〉は、務めていたニコニコ動画を運営する株式会社ニワンゴの取締役を、平成25年(2013年)2月18日付で、「一身上の都合」を理由に辞任しています(*14)。この前年平成24年(2012年)末に、麻薬特例法違反(あおり、唆し)幇助の疑いで、警視庁から東京地方検察庁に書類送検されたことから、企業イメージの低下を嫌ったニワンゴの親会社・ドワンゴ創業者の川上量生との話し合いの結果であると言われています。

(*11)ひろゆき『僕が2ちゃんねるを捨てた理由 ネットビジネス現実論』2009年
(*12)「ひろゆき氏、2ちゃんねるの現管理人ジム・ワトキンス氏を訴えたと明かす
(*13)「ひろゆき、英語圏巨大匿名掲示板4chan管理人になる
(*14)http://pdf.irpocket.com/C3715/qzIz/otm4/WgO0.pdf

「よく分からない文化」が社会のインフラに変貌した

数少ない〈ひろゆき〉論を2015年に書いた山本一郎は、こうした現状について、「普通の人たちもネットを使うようになった」からだと喝破しています。山本は、〈ひろゆき〉とともに2ちゃんねるの営業のための法人を一緒に設立したため、いまだに周囲から「元2ちゃんねるの山本さん」と言われる、と愚痴ってます。