多くの人がどこかで直面する親の介護。エッセイスト、小説家として超多忙な日々を送る阿川佐和子さんも、実は介護をしている最中なのだ。そして、1人で頑張らずに自分の生活も大切にするアガワ流の介護について語ってくれた。

「母さんはボケた」と3回も叫んだ父

母の物忘れに初めて気がついたのは2011年だったと思います。私が57歳で、母が83歳のときです。

エッセイスト 阿川佐和子氏

当時、両親は2人で生活をしていて、週に何日か家政婦さんに片付けなどを手伝ってもらっていました。ある日、家政婦さんから電話で「こんなことをお伝えするのはなんですが、奥様はちょっと物忘れが尋常じゃありません」と遠慮がちに報告されました。一瞬「えっ!」となりましたが、「ああ、そういうときがきたのか」と覚悟もしました。でも、父(作家の阿川弘之氏)が7歳上の90歳で、母が先にボケ始めたのは正直にいうとショックでした。

もともと母は狭心症の気があって、その後に心臓発作を起こし手術をしました。入院する前にレストランで弟と私と両親の4人で会食をしている途中、母がお手洗いに立ったときに父が、「おまえたちは気がついているかどうか知らんが……」と前置きして、「母さんはボケた。母さんはボケた。母さんはボケた」と大声で3回も叫んだのです。もしかして「母さんを看ながら生きていくんだ」という父なりの覚悟の宣言だったのかもしれません。だからといって、父もすぐに具体的に何をするというわけではなかったのですが……。