「母が亡くなったら、遺産は兄に優先的にいってしまう」

現在、Aさんは自立していますが、最初の就職で対人関係に苦しみ始め、30歳になったころには正社員の地位を手放しました。派遣やパートタイムで働き続けてきていて、アパートの家賃の支払いを滞らせたことはないものの、経済的にはギリギリの状態です。

家を持たない自分の不安はとても大きいものであるのに、母は兄ばかりを気にかけています。Aさんの大変さに、母はまったく気がついていないし、「気がつこうともしていない」と相談者は話します。

まだ先のことではあるだろうけれど、母が亡くなったら、遺産は兄に優先的にいってしまいそうな気がするとのこと。父の時の不公平な分を埋めてほしい気持ちもありますが、せめて次は平等に分けてほしいと願いつつ、兄を大事にしている母には言い出せずに不公平感と不安が募っています。

筆者がお金の相談を受ける際、家計簿や預金通帳のお金の情報だけを用意されても、解決策の提示が難しいことは少なくありません。お金に付随する、またはそれ以外であっても困っていることや不安に思っていることなども含めて、もろもろをお話しいただくようにしています。

時に愚痴や悪口も出てきて、話があちこちへ飛ぶこともありますが、話すことで不安の原因に相談者自ら気づくこともありますし、モヤモヤしている感情が整理されることもあるようです。

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働けずにいる兄を嫌っているわけではない

Aさんは、働けずにいる兄を嫌っているわけではありません。仲が悪いわけではないし音信不通というわけでもないのです。自分の生活が今後も何とか回るのであれば、兄との関係に不安はなく、「不安」や「不満」、「不公平」の矛先は、主に母に対するものと見受けられました。

筆者は心理面のプロではないので、そちら方面への判断やアドバイスはできませんが、幼い頃からの母の子ども3人への態度が平等ではなかったというところまでさかのぼった話も出てきたので、そう理解せざるを得なかったのです。

そこで、母の協力を得て、複数のキャッシュフロー表(以下、CF表)を作成することを提案しました。

仮にAさんの老後が立ち行かないものであっても、実家に経済的ゆとりがあれば、そこを手がかりに母の相続で平等に分けてもらう話を「他人」である筆者が伝えることができます。

経験上、他人からの話には耳を傾けてもらいやすいと感じているので、相談者は「ぜひに」となりました。反対に、実家に経済的なゆとりがない場合、その事実を知ることで相談者のモヤモヤは減るとも考えられます。ゆとりがあるのに自分を助けてくれないことが不満なのであって、ゆとりがないのであれば、諦めがつくからです。とにかく、Aさんが母と話すことなく悩んでいても前には進めそうにはありません。