受験以外の目標をいかに定められるか
進学校として知られる開成だが、昔も今も、勉強をするか否かは生徒に委ねられている。また、進路指導を学校が積極的に行っているわけではない。
メディアアーティストであり筑波大学准教授・学長補佐の落合陽一氏(2006年卒)は、「開成は中高一貫校として中学で300名が入学しますが、高校からも100名が入学します。私も高校からの入学。入試はそれなりに難しいけれど、一度入学してしまうと学校は勉強せよと迫りません。だから好きなこと、やりたいことができます。それでも地頭がいいというか、ガリ勉じゃないのに成績のいい奴が何人もいて、高3が受ける模試で高校2年生が一番を取ってしまったり。とんでもなく頭のいい人がいますね」と話す。
クリーンエネルギーの開発と支援に取り組むクリーンプラネット社長の吉野英樹氏(93年卒)は、「開成は進学校ではあるものの、大学受験がすべての目標ではありません。私は柔道部に所属していましたが、高2の運動会が終わった直後に翌年の運動会の団長選挙に立候補。橙(だいだい)組(5組)の団長に就任しました。高3の運動会まではガンガン体を鍛え、部活と運動会に備えたのです。運動会は生徒の自主運営で、学校は口を出しません。それくらいに大事な行事なのです」と言う。
メインイベントは運動会の“棒倒し”
高校は2年生から3年生になる時に組替えがなく、そのまま持ち上がる。メインイベントの棒倒しは、高校3年生と2年生のみの組別のトーナメントだ。ちなみに高1以下は、たとえば中1は騎馬戦などほかの競技が用意されている。また、仮装行列などのアトラクションがあり、女装した“ミス開成”が非公式に決まり、毎年話題となったそうだ。
現在、内閣情報官を務める元警察庁の北村滋氏(75年卒)は、「警察官僚になった私ですが、当時は文学青年でした。それでもボートレースの応援指導、そして“棒倒し”がメインイベントの運動会には思い入れがある。質実剛健であり、ディスプリン(規律)が保たれていることが開成の特徴だと思います。卒業後も、省庁や会社ごとにOB会があり、何かと結束力は強い」と語る。
73年に高校から入学した外務大臣の岸田文雄氏は、入ってすぐ衝撃を受ける。
「ボートの応援指導だといって、屈強な3年生たちがいきなり、ドカドカと教室に入ってきた。高校生には見えないような大きな人たちでしたが、彼らから怒鳴られ、脅かされながら、一生懸命に応援歌を歌ったのを覚えています。強烈でした」。とはいえ、岸田氏はすぐに硬式野球部に入部。東東京ブロックは、早実や帝京といった強豪校がひしめく激戦地区。遥かなる甲子園への出場を目指し、白球を追う日々を重ねる。「ポジションはセカンド、またはショート。他の学校よりレベルは低かったかもしれませんが、一所懸命やりました」。