ほんの数カ月でも首相になれれば満足なはず

チャーチルとジョンソン。この2人の政治家がその資質において「似ている」という人は少ないだろう。

チャーチルは目立ちたがり屋ではあったかもしれないが、英国を世界的な視点から俯瞰し、英国をそして英国民を救うために第2次大戦で国民を鼓舞し、大戦の勝利に導いた。真剣な時代の真剣な政治家といえよう。

ジョンソンといえば、英国や国民のために奉仕したいというよりも、「首相になる」という自分の夢を実現させるために政治家をやってきたように見える。実際、ジョンソンを知る多くの人がそう指摘しているのだ。

しかしながら、チャーチルの演説や逸話を聞きながら育ったジョンソンは、チャーチルの挫折や逆境を自分の人生に重ね合わせ、その不屈の精神を学んだ。そうやって、一部の国民からは徹底して嫌われ、一時は首相になる道を閉ざされたかに見えても、「いつかは自分の出番がやってくる」と信じて目的を成就した。

ジョンソン新政権は「短命に終わる」という説もある。ブレグジットをめぐるEUとの交渉がジョンソン自身が死守を約束した離脱予定日(10月31日)に実現できない可能性が高いからだ。しかし、ジョンソンはほんの数カ月でも夢が実現し、首相の座に座ったことを、後で誇らしく思うのではないか。

小林 恭子(こばやし・ぎんこ)
在英ジャーナリスト&メディア・アナリスト
外資系金融機関勤務、英字紙「デイリー・ヨミウリ」の記者を経て、2002年に渡英。フリーのジャーナリストとして、政治やメディアについての記事を自身のブログ「小林恭子のメディアウォッチ」はじめ、各種媒体に寄稿している。著書に『英国公文書の世界史』(中公新書ラクレ)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新書)など、共訳書に『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)がある。
(写真=EPA/時事通信フォト)
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