人気とりのためならフェイクニュースも書く
ジョンソンを好ましく思う人は「白人」「男性」「エリート層」「古き良き時代への回帰願望」といった要素をジョンソンと共有する人々や、エリート層に統治されることに慣れている、愛国心あふれる労働者層だ。
「エリート層なのに、なんだか抜けていて、面白いことを言う人物=ボリス」というイメージは、1990年代に出演したBBCの時事ニュースの風刺番組「ハブ・アイ・ゴット・ニューズ・フォー・ユー」で広がった。その軽妙な受け答えが大いに気に入られた。「われらがボリス」の誕生である。
2016年、EUに加盟し続けるかどうかの国民投票が行われた時、ジョンソンはEUからの離脱運動を主導した。「英国を国民の手に取り戻そう!」この言葉で、有権者の心をわしづかみにしたのである。
ジョンソンを嫌う人は、どこを嫌うのか?
まず、エリート層であること自体に反発する人は相当数いる。「保守党は金持ちと中流階級の政党」と見る人は、ジョンソンを嫌う。エリート層にもジョンソン嫌いは多い。彼らはジョンソンを「大衆迎合」「不真面目」「いい加減」「節操がない」「風見鶏」「裏切り者」などと評する。つまり、「政治家としての信念がまったく、見えない」というイメージが彼にはつきまとう。
例えば、ジョンソンは保守系全国紙デイリー・テレグラフのブリュッセル特派員であった頃、EU(当時はEC)がいかに無理な規則を英国に押し付けているかを書き続け、反EU感情の醸成に寄与した。実はそのほとんどが事実ではなく、記事内のコメントを「創作」したこともあった。
「自分の名声と自己満足以外に関心を持たない」
ロンドン市長時代はリベラル派で、移民を歓迎した。ところが先の国民投票では、離脱運動を主導。政治姿勢がコロコロ変わる。ジョンソンがテレグラフ紙にいた時の編集長マックス・ヘイスティングスは「ジョンソンは自分の名声と自己満足以外に関心を持たない」と手厳しい。
しかし、大きなひんしゅくを買ったのは、数々の失言だ。テレグラフのコラムの中で、イスラム教徒の女性が目以外の全身をベールで覆った姿を「まるで郵便箱のようだ」と評したり、国民投票のキャンペーン中、訪英したオバマ米大統領(当時)には「彼はケニア人の血が入っているから大英帝国を毛嫌いしているのだ」などと大衆紙サンのコラムで書いたりした。イスラム教徒や女性への蔑視や、人種差別的なにおいがする発言である。