嫌いな人は“さよなら”すればいい

学校や職場の人間関係も「選ぶ」のが難しいことでは同じだ。クラスの友だちや職場の上司が固定されてしまい、いったんこじれると逃れることができない。それがうつ病や自殺の原因になっている。

「過労死」や「ひきこもり」はこれまで、まじめで責任感が強く、組織に過度に依存する日本人に特有の問題だと思われていた。しかしいまやアメリカでも職場に適応できずうつ病になる人が増え、ヨーロッパではひきこもりが社会問題になっている。「karoshi」「hikikomori」が英語になったように、いまや世界共通の現象なのだ。

「人間関係が希薄になった」と嘆く人がいるが、現実はまったく逆だ。昔の人間関係は家族と数人の知人程度だったが、いまは日常的に多くの人と複雑な人間関係を築かなければならず、疲れ果ててしまう。だからプライベートな時間くらいは「一人になりたい」と思い、世界中で「ソロ化」が進んでいるのだ。

しかし、考えてみれば家族と学校・職場は同じではない。いやな友だちから自由に抜けることができればいじめは起きないだろうし、上司を簡単に選択できればパワハラやセクハラに悩むこともない。こうして「後期近代化」の先頭を行く欧米先進国を中心に、「(家族以外の)すべての人間関係を自由に選択する」新しいムーヴメントが始まった。

人生の「コスパ」で働き方を選ぶ

どんな職場にもおかしな人は一定数いるものだ。ベストセラーになった『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)は「勇気」を獲得することで困難な人間関係を乗り越えようと説くが、人間関係から自由に離脱できれば「嫌われる」ことに耐える必要はなくなるのだから、こちらの方が「幸福の戦略」としてはずっとシンプルだろう。

誰とどんな仕事をするかを自由に選択できる働き方が「フリーエージェント」で、その魅力にいち早く気づいたアメリカではフリーエージェント化が急速に進んでいて、いずれ労働人口の半数を超えると予想されている(その背景には日本でいう「非正規化」の影響も大きい)。

「アメリカだからできる話だ」と思うかもしれないが、日本でも以前からフリーエージェント化している業界がある。たとえば映画製作の現場だ。

映画をつくるときの一般的なプロセスでは、まずプロデューサーが企画を立てて出資者を募り、次に脚本家と相談しながら作品の骨格を決めて監督と俳優にオファーを出す。監督は助監督や撮影、音声などのスタッフを集めてクランクインし、作品ができあがれば製作チームは解散する。スタッフのなかに会社員(サラリーマン)はほとんどいない。