34人が死亡する平成以降最悪の放火殺人事件

京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」(京アニ)の第1スタジオで、34人が死亡する放火殺人事件が起きた。平成以降の火災で最悪の惨事である。亡くなった方々とその関係者に対し、心からお悔やみを申し上げる。

京都府警によると、7月18日午前10時35分ごろ、男が1階玄関から侵入。「死ね」と叫びながらガソリンをまき、着火用ライターで火をつけた。火はあっという間に燃え広がり、鉄筋コンクリート造3階建て延べ700平方メートルが全焼した。

爆発火災があったアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオ=2019年7月18日午後、京都市伏見区(時事通信社ヘリコプターより)(写真=時事通信フォト)

京都府警は全身にやけどを負って現場近くの路上に倒れていた男の身柄を確保。翌19日、府警はこの男について職業不詳、青葉真司容疑者(41)と公表した。逮捕状を請求する前の容疑者について氏名を公表するのは異例だ。府警は記者会見で「事態の重大性を鑑みた」と説明した。青葉容疑者は大阪の病院で治療を受けており、府警は回復を待って逮捕する方針だ。

「京アニクオリティー」と呼ばれるほどの高いブランド力

放火された京都アニメーションの創業は1981年。本社があるのは京都府の宇治市だ。下請けからスタートしたが、「京アニクオリティー」と呼ばれるほど丁寧な作画や演出力で次第に人気を集めるようになった。これまでに「けいおん!」「涼宮ハルヒの憂鬱」「響け!ユーフォニアム」「Free!」などのヒット作品を出している。テレビアニメだけでなく、映画も手がけており、海外での人気も高い。日本のアニメブランドを象徴する企業のひとつだ。

日本のアニメ制作会社は東京に集中しているが、京アニは京都からの発信にこだわり、多くの作品が京都を舞台にしている。このため多くのファンが京都各地を観光で訪ねており、そうした動きは「聖地巡礼」とも呼ばれている。

死者数が多いだけでなく、日本アニメの象徴への放火という事件性から、さまざまなメディアが大きく取り上げた。この連載で読み比べている新聞社説も例外ではない。なかでも毎日新聞は発生翌日の19日付社説で書いている。他紙に先駆ける報道だったが、社説は早ければいいというわけではない。

社説を19日付の新聞に載せるためには、事件の発生と同時進行で書かなければならない。京都市消防局に通報があったのが午前10時35分で、火災の鎮圧が宣言されたのが午後3時19分だった。一方、翌日の新聞に社説を載せるためには、一般的には午後6時ごろまでに論説委員が原稿を書き上げる必要がある。つまり事件の方向性がよく分からないうちに、筆をおかなければいけない。かなりリスクの高い行為だ。