「このシューズで負けた」「他社のシューズがいいです」

その状況で実業団チームを退社した岩出が2年前に入社。すぐに彼女がレースで履くための別注シューズの製作が始まった。ただ、その道のりは険しかった。アンダーアーマーのシューズを履いて出場した2018年12月の山陽女子ロードレース・ハーフマラソンで18位(1時間13分49秒)に沈んだのだ。岩出は濡れた路面に足をとられて、優勝した前田穂南(天満屋)に4分半以上の大差をつけられた。

「実は出来上がったシューズのスペックが(オーダーしたものと)違っていたんです。レース直前に気づいたんですけど、このタイミングで言うべきかすごく迷いました。当時は作る側と岩出に距離があったので、腹を割って話せる状況ではなく、そのまま渡してしまって。ゴールした瞬間に、『シューズのせいです』と言われました。正直、信頼を失ったと思いましたね」(藤井部長)

岩出は昨年3月の名古屋ウィメンズマラソンで2時間26分28秒の日本人2位に入り、MGCの出場資格を獲得している。そのときはアンダーアーマーのシューズが間に合わず、他社のシューズを履いていた。山陽女子ロードレースの後、藤井部長は岩出から「他社のシューズがいいです」と言われるも、リトライすることになり、新シューズで今年3月の名古屋ウィメンズマラソンを迎えることになった。

黒色のシューズを履いた岩出は、30km過ぎで福士加代子(ワコール)に遅れたものの、終盤に猛追。40.8km付近で逆転して、自己ベストを46秒更新する2時間23分52秒で日本人トップに輝いた。これが初めての“成功体験”になった。

最新モデルは「スポーツシューズのメッカ」で開発・製作された

岩出の名前を冠したこの「REIAモデル」は、米国ポートランドにあるアンダーアーマーのイノベーションセンターで開発・製作されている。生体力学の研究所とアスリートの動きをテストする「パフォーマンストレーニングセンター」で岩出の動作を解析。そのデータと本人の感覚をシューズに落とし込んだ。

岩出玲亜選手(写真提供=ドーム、以下同)

ポートランドは「全米で最も住んでみたい都市」に選ばれるほど人気の街だ。ナイキ本社やアディダスの北米本社など、スポーツメーカーが集積している。そこにアンダーアーマーも新拠点を設置。技術者たちの引き抜きもあり、ポートランドは世界のランニングシューズをリードする地域になっている。