キーワードは安全で安心な住環境

戦後60年、日本は都市づくりをサボタージュしてきたと言ったが、実は工業都市に関しては、京浜から阪神、北九州への三大工業地帯が連なる太平洋ベルトをピカピカに磨いてつくり上げた経験がある。

だが工業国家を追い求める時代は、すでに終わった。かつての日本と同じタイプの工業国ならアジアを見回せばそこら中にある。これから日本が目指すべきは、少子高齢化の進んだ成熟社会にふさわしい先進的な街づくりであり、安全で安心な住環境の充実である。

08年の五輪開催を機に目まぐるしく再開発が進む中国の首都・北京。

08年の五輪開催を機に目まぐるしく再開発が進む中国の首都・北京。

いくら42インチのフラットテレビを見ていても、WiiとDSとプレステを持っていても、明日地震で潰れるかもしれないところで暮らしているのを近代的生活とは言わない。住環境の豊かさは文明国の証しである。

しかし世界第2位の経済大国といいながら、日本では住環境の充実が生活の中心から外されてきた。

47都道府県で最も住みやすいのは富山県だと言われる。地方交付税をもらっている富山より東京のほうが住環境が悪い、というのだからふざけた話だ。富山で暮らしている人たちが感じている豊かさを、東京でも実現しなければいけない。かつて三大工業地帯をつくり上げたあのエネルギーを、大都市の再生に振り向けるべきなのだ。

住環境以前に、都市の安全性という問題もある。阪神淡路大震災から14年近く経過したが、5000人以上の死者を出した苦い教訓を生かして、東京で直下型地震に備えた対策を講じているかといえば、ほとんど何もしていない。

液状化現象の研究は進んでいて、たとえば墨田区なら100%、千代田区でも25%程度の液状化リスクがあることはわかっている。しかし軟弱地盤の土地改良など、液状化対策はまったくゼロの状態だ。

それから備蓄。液状化などで道路が寸断されるから、被災地への支援がなかなか行き届かない。また発電所が止まったり、電線が切れて、電気が届かなくなる。たとえば高層マンションでエレベーターが止まると、給水車が来てもバケツに水を汲んで高層階まで上がるだけで大変な苦労だ。食糧備蓄や非常用電源は、確保しておかなければいけない。

当時、ボランティアで被災地に食料を届けた経験から言えば、一番喜ばれたのはウエットティッシュだった。ホコリだらけの中で作業をしているから、顔や目を拭きたい。水が足りないから手も満足に洗えない。そんなときにはウエットティッシュが重宝するのだ。こうした備蓄は町内会などの自治会レベルで準備しておくべきだと思うが、やっているという話はあまり聞こえてこない。