開始90分でサーバーがクラッシュ

98年4月14日――プログラムの1行目が書かれてからちょうど半年――ネットフリックスの準備は完了し、ウェブサイトが立ち上がった。共同創業者のリード・ヘイスティングス(現CEO)はウェブサイトのローンチに立ち合ったものの、オフィスの片隅にいるだけだった。大学院の2学期目に入っていた。過去6カ月間はランドルフと頻繁に意見交換していたとはいえ、オフィスを訪れることはまれで、新しいスタッフの大半とは面識さえなかった。

ウェブサイトがローンチとなるや否や、インターネットの運営に明るいコーリー・ブリッジスは以前から契約していたインフルエンサーを自由にさせた。彼らが自身のコンテンツで「ネットフリックス誕生」と発信すると、興味津々の訪問者がぞくぞくとバーチャル店舗に現れた。ウェブサイトは予定通りにきちんと動いていた。ただ、訪問者が増えるにつれてプログラマーのエリック・メイエは不安になっていった。

ローンチから90分後、サーバーが容量いっぱいになって……クラッシュした。メイエはスタッフを呼び、ぼろぼろのトヨタ製ピックアップトラック――経理担当グレッグ・ジュリアンが運転する車――で近所のコンピューター専門店フライズ・エレクトロニクスへ行かせた。サーバー修復に取り組んでいる間、新しいコンピューターを10台調達して容量をアップさせようと考えたのだ。

注文が大量に入るのに閉店時間がない

一方、DVD倉庫ではプリンターが詰まり、大量に入ってくる注文をさばけなくなった。DVDが掛けられたペグボードは混乱状態になり、中途半端に処理された注文書はベンチの上で山積みになっていた。そんななか、作業員は狭い通路を行ったり来たりで大わらわだった。

サーバー修復に関わっていないスタッフは全員で注文処理に当たった。ウェブサイトが復活するたびに大量の注文が舞い込んでくる。これの繰り返しだった。深夜までに注文件数は100件以上に上り、発送しなければならないディスク数は500枚以上に達した。にもかかわらずメイエはウェブサイトを安定させることができず、なお四苦八苦していた。

ヘイスティングスはスタッフを前にして言った。「ウェブサイト上で何かメッセージを出すべきじゃないかな。『店が大変混雑しております。もう少ししてからご来店ください』とか」

これを聞いたマーケティング担当のテリーズ・スミスは思った。それはおかしいよ、ここはインターネットなんだから、店が混雑するなんてあり得ないでしょう――。この瞬間になってハッと気付いた。ネット上では閉店時間なんてあり得ないのだ!