山口百恵さんの「表情がよかった」

「山口百恵さんと仕事しましたね」

「『赤い迷路』。赤いシリーズの最初のやつでね。僕は山口百恵という人を知らなかったんです。僕が彼女を気に入ったところは何だと言われたら、それは表情です。不幸な表情がよかった。あの頃は彼女にとって一番、仕事が入っていた時でしょう。忙しくて、車で移動して、飯を食う間もないというスケジュールでやっていたから、演技を考える暇なんかなかった。だから、僕は百恵ちゃんの顔だけを撮ることにしたんだ。それでも、彼女の表情がよかったから40分なり、50分、なんとかなったんです」

もうひとり、カントクが「いい表情をしている」といった俳優が志村けん。カントクはサウナのなかのテレビで志村さんを見ていて、表情がよかったから、『鉄道員』に出演をオファーした。

ものすごい迫力だった暴力シーン

「健さんの映画で僕がいちばん気に入っているのは、あまり考えたことないのだけれど、『冬の華』のあそこじゃないかなと思います。東映育ちの監督が東映育ちの俳優を撮ると、ああいう風になるんだなと思っていただければ……」

「路上でやくざをたたき伏せる、おっかないシーンですか?」

「そうです」

「あんなに高倉健さんが暴力が似合う人とは思いませんでした。ものすごい迫力でした。同じスターでも石原裕次郎さんとは違いますね。裕次郎さんはケンカのシーンでも怖いとは感じません」

「石原裕次郎さんは俳優、歌手で売れたけれど、本質的にはプロデューサーですよね。『オレは石原裕次郎というスターを演じる』と考えられる人です。健さんは違う。俳優です。芝居をするだけです」