時間は変わらないのにぐっすり眠れるように
忙しいビジネスパーソンにとって、睡眠をいかにとるかは重要な課題です。仕事による不規則な生活は、肉体だけでなくやがて精神にも不調をきたします。
アメリカの精神科医オークランダー氏も、仕事の忙しさで心身に大きな疲労を感じているひとりでした。そこで、自分が受け持つ患者によく提言している「運動の重要性」を、自ら実践することにしました。トレーナーを迎え、筋トレを開始したのです。
そして、1カ月が過ぎた頃、自身の身体に起こった明らかな変化を次のように述べています。
「睡眠時間は少ないにもかかわらず、ぐっすりと眠れるようになりました。そして、エネルギーに満ちあふれている自分に気づきました」
これを裏付けるかのように2017年7月、マクマスター大学のコワセヴィッチらは、筋トレと睡眠に関する13の研究報告をまとめて解析したメタアナリシスの結果を発表しました。その結論は次のようなものです。
「筋トレは、睡眠の時間(量)は増やさないが、睡眠の質を高める」
習慣的に筋トレを行っている人の場合、睡眠時間は増えないものの、浅いノンレム睡眠(ステージ1)を減少させ、深いノンレム睡眠(徐波睡眠)を増加させることが示されました(図表3)。つまり、相乗効果によって睡眠の質が高まるのです。
またこの事実に加え、筋トレの「総負荷量」「週の頻度」が睡眠に与える影響についても統計的な解析を行いました。そして、「総負荷量」と「週の頻度」は、睡眠の質の改善に寄与することがわかったのです。
「総負荷量」は、運動強度に対し、運動回数やセット数を乗じたものです。睡眠の質は、少ない総負荷量よりも高い総負荷量で改善し、少ない頻度(週1~2回)よりも多い頻度(週3回)で改善することが示されました。
不安を持ちやすい日本人にこそ向いている
筋トレは、睡眠の質をどのようなメカニズムで改善するのでしょうか。主な効果は次のとおりです。
・筋トレ後の、睡眠中の体温が上昇する。これによって徐波睡眠を誘発させる
・筋トレによる心拍数の増加が【※】迷走神経を活発にする。これによって睡眠時は心拍数が下がり、睡眠の質が改善される
・筋トレは不安を解消する。これによって脳由来の神経栄養因子(BDNF)を増加させ、睡眠の質を改善する
※延髄から出ている末梢神経。大部分が副交感神経からなる。
そのほかにも、グルコースの代謝、成長ホルモンの増加などが睡眠の質を改善すると推察されています。
コワセヴィッチらの発表は、世界で初めて「筋トレが睡眠の質を高める」というエビデンスを示しました。習慣的にトレーニングを行うことによって、睡眠の質を高めることが示唆されたのです。