米国クルーズ船の客もネットで予習して来園

「ひたち海浜公園」を訪れた翌4月28日、取材スタッフは茨城港(常陸那珂港区)に足を運んだ。この日、米国のクルーズ船「セブンシーズ・マリナー」(総トン数4万8075トン、乗客定員700人)が初めて寄港し、歓迎イベントが開催されたからだ。

乗客は朝に下船した後、「笠間稲荷・水戸弘道館コース」などに分かれて県内名所を観光。「ひたち海浜公園コース」に行った米国人ご夫婦(ヒューストン在住の60代)に話を聞くことができた。事前にインターネットで「ネモフィラ」を予習していたという。

茨城港に寄港していた米国のクルーズ船「セブンシーズ・マリナー」。乗客定員700人の大型船だ。(撮影=高井尚之)

「とてもゴージャスだったわ。ネモフィラだけでなくチューリップもあり、いろんな色や味が楽しめるスープのよう。(下から見る)人が歩いている姿と対比すると、その規模もわかります」(妻)

「この公園が国営公園というのにも興味を持った。米国にも国営公園はあるけど、こうした公園はない。電池がなくなりそうなぐらい、たくさん撮影しました。ネモフィラの丘は本当に美しく、みんなが実に幸せそうな笑顔をします」(夫)

公園の中島さんと同じ意見だったので、「なぜそう思うか」を突っ込んで聞いてみた。

「天気がよいと特に、満たされた気持ちになるからでしょう。丘にいる人は笑顔で、赤ちゃんは泣いておらず、犬もほえていません」

今後は観光コンテンツの「選択と集中」も必要

茨城県では前年に「米国客船」寄港が決まると、官民一体で具体的な取り組みを進めた。

たとえば「外国クルーズ船受入実行委員会」の事務局はIPAC(株式会社茨城ポートオーソリティ。本社は茨城県東海村)内に設けられた。乗客の下船から乗船時間までに行う「歓送迎演奏」「おもてなしステージ」「飲食・物販コーナー」「大型建設機械の展示」なども主催した。

同社長の後藤和正さん(元茨城県土木部長)が、茨城港常陸那珂港区の役割を説明してくれた。

「海浜公園を含むこの一帯は、戦前は陸軍・水戸東飛行場(水戸陸軍飛行学校)で、戦後は米軍に接収された後、1973年に日本に返還された場所です。茨城港は常陸那珂港を中心に、日立港、大洗港の3港統合によって誕生した港で、常陸那珂港区には北埠頭(ふとう)、中央埠頭、南埠頭があり、米国クルーズ船が来港したのは中央埠頭になります。北埠頭から見て南側となる日立建機やコマツの建設機械工場の向こう側が海浜公園です」

今後は米国客船に限らず、「国内外に港の魅力を伝え続けたい」と話す。5月26日には国内の大型客船「飛鳥Ⅱ」の来港が予定されている。

「ネモフィラ」が爆発的人気となるなど、茨城県に注目が集まるにつれ、同県に対する地味なイメージも変わってきた。今後は観光コンテンツの「選択と集中」も必要だろう。あれもこれもと手を伸ばすと焦点がぼけて、観光イメージが薄れてしまうからだ。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
(写真提供=国営ひたち海浜公園 撮影=高井尚之)
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