目標は「勝敗を可視化」するための手段

西野さんの睡眠時間は2時間。当日は5000冊の本にサインを書き入れながらのインタビューだった

――本を書くとき、部数の目標は立てますか。

【西野】一応アホみたいな目標は立ててますね。

毎回「100万部!」とか言っちゃってます。

――だとすると、どうして目標を掲げるのでしょうか。壮大な目標を掲げると、作品作りに何かいい効果がある?

【西野】ゴールを設定すると勝敗が可視化されるので。僕が来年出す映画は「ディズニーを超える」と宣言しています。そうやってぶち上げると、実際にその年のディズニー映画の数字と勝敗がつくじゃないですか。勝ったらすごいことだし、負けたら負けたで、「じゃあ西野を応援しよう」となる。もし目標を掲げていないと、1位ディズニー、2位西野と並んでいても、「頑張ったじゃん」となるので。

作り手は応援者を増やさなければいけませんが、そのためには物語と勝敗が必要です。それを可視化するために目標を掲げますね。

漫画『ONE PIECE』がどうして人気があるかというと、ルフィが「海賊王になる」とぶちあげるからですよね。ルフィが負けて逃げてるときって、すげえ物語がある感じがするじゃないですか。あの瞬間、ルフィは負けているけれど、読者は減っていなくて、「ルフィはここからどうやって巻き返すの?」と興味を引かれて、むしろ応援してくれる人が増えているはずです。

自分のファンを増やすストーリーの描き方

――西野さんも、あえて負けを作ることがある?

【西野】漫画を描くように自分の人生をデザインしています。心情的には、ぜんぶうまくいきたいです。でも、ルフィが全戦全勝している物語なんておもしろくない。だから僕も、ここは大負けしておいたほうがいいと思ったときには大負けします。主人公の感情曲線をちゃんと自分の人生に置き換えてやるという。

――負けが逆に勝ちを呼び込むんですね。

【西野】オンラインサロンが分かりやすいかもしれないです。オンラインサロンは入会者と退会者の数字が毎日出るんですけど、プロジェクトが失敗したときは退会者が減って、逆にうまくいった状態が続くと退会者が増えていくんです。それがわかると、「成功とは何か?」という話になってきて。成功の指標は、何万部売ったかじゃなくて、ファンが増えるどうか。僕の中では物語を描ければ成功で、描けなければ失敗です。

ほんと、守りに入れば入るほど数字は如実に減っていきますよ。だから毎回振り切って、ときどき死にかけてます(笑)。

――最近も死にかけたことがあったのですか。

【西野】いま美術館をつくっているんですが、勢いで美術館用の土地をバンバン買っちゃって、税金が払えなくなりそうになっちゃいました(笑)。当初の見積もりは3億円だったのに、いろいろやっているうちに15億円になってしまって。その瞬間は会社自体が死にかけました。スタッフからは「3月まで1円も使うな」と言われたときは大げさだと思ったんですが、ほんとに1円もダメで、マジなんだと(笑)。

これも全部オンラインサロンに公開して、みんな「おもしれえじゃん」と言ってくれたから成功です。そうやって応援してくれる人がいれば、なんとでもなります。