自分に近づく他者に「低リスク」を求める人びと

何年も婚活の戦場を戦い抜いてきた彼が、態度を急転換させてパートナーシップ市場から退場してしまった理由がわかった気がした。「お前の遺伝子が悪い(ゆえにお前にはだれかのパートナーになって子孫を残す価値なし)」と言われているような場所に耐えられる人はそう多くはないだろう。

大規模な戦争もなく凶悪犯罪が年々減少する平和で安全な市民社会において、人びとに最後に残されたリスクは「人間関係(他者とのかかわり)」なのだ。

これまで社会には多くのリスクがあったが、それらがなくなったことで、私たちはこの社会に残された「最後のリスク」へとリソースを全集中するようになった。自分がお近づきになる他人に求めるのはなによりも「低リスク」であること。そのためには、社会的・経済的ステータスでは測れない、人間の本質的な部分にまで踏み込む必要があった。

この社会に残された「最後のリスク」を回避しようとする流れは、なにも私的パートナーシップ形成の場面でのみ起きているわけではない。

採用選考での適性検査ではなく「不適性検査」

「不適性検査」というテストを知っているだろうか。聞きなれないことばかもしれない。企業の採用選考でしばしば用いられている「適性検査」のことを知っている人は少なくないだろう。だがいま「不適性検査」のニーズが急速に高まっているという。

例として、人材採用向けに「不適性検査」を提供する企業である「株式会社アソシエート」が提供する適性検査「不適性検査スカウター」をみてみよう。

同サービスのコンセプトは、将来的にリスクになりかねないタイプの人を「誤って採用してしまわないように」、採用時点でハネられるよう、職務遂行能力だけでなくて多面的なパーソナリティー分析データを提供するものだ。

ありがたいことにサイト上では検査項目が紹介されている。学力検査にあたる「能力検査」を除くと、項目は2種類に大別できるようだ。ひとつは「資質検査」。性格・意欲・思考力・ストレス耐性・価値観・ネガティブ・職務適正・戦闘力・虚偽回答に分けられ、そこに紐づく形で細かな下位項目が設定されている。いくつか気になる項目はあるものの、これ自体は一般的な適性検査とそれほど変わりはないように見える。