「若さ」を保つことは本当に必要なのか。化粧文化に詳しい駒沢女子大学の石田かおり教授は、「今は誰もが同じような外見を目指して、すぐに効果が出る『ファストビューティー』が求められている。だが、同じ外見の人はいない。人それぞれ・年それぞれの美しさを考えるべきではないか」と指摘する――。
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本当に人生のピークは「高校生」なのか

通勤電車の中ですぐ後ろから「人生のピークが終わったなあ」という会話が聞こえてきたことがある。卒業式帰りの男子高校生だった。またアルバイト先で女子大生が女子高生にオバサン扱いされて傷ついた話を聞いたことがある。いずれも高校生ということに高い価値があり、高校生でなくなることで価値が下がるという考え方が見られる。

現代社会で強力な人間の価値の1つに「若さ」がある。若々しい状態でいることや若々しく見せることを実行するアンチエイジングは多種多様な情報と手段が次々と現れては消えながら大市場を形成し、景気の良し悪しに関わりなく市場は拡大の一途だ。この文章を読んでいるあなたも、何かしらアンチエイジングを気に掛けながら生きているのではないか。

中高年だけでなく、冒頭の例のように若年層にも「若い方がよい」という価値観が浸透している。近年SNSやインターネット動画を通じた個人発信が急激に日常化したことで外見の印象をよくする必要性を感じている人が増し、印象向上とアンチエイジングが一体化する傾向が見られる。

『人は見た目が9割』が110万部も売れた平成

いつから日本人に外見重視やアンチエイジングが沁み込んでしまったのだろう。1995年の「ユーキャン 新語・流行語大賞」トップテンの中に「見た目で選んで何が悪いの!」というカメラのCMコピーがある。その年を象徴する流行語の中に選ばれたことからこの頃だと言えそうだ。その10年後の2005年には『人は見た目が9割』という新書がベストセラーになった。新書として異例の110万部も売れたとも言われている。題名に共感した人が多かったのではないか。2013年には続編『やっぱり見た目が9割』も出たことから平成を通じて見た目重視が定着したと考えられる。

最近授業の中で学生たちにこんな質問を投げかけてみた。「本音と建前を使い分けているか、あるいは使い分けを見たことがあるか」。反応が薄いので考えることを促しながら話をしてみると、そもそも「本音と建前」という表現自体をあまり聞かないので何も思い浮かばないことがわかった。かつて「人は見た目ではないよ、中身が大事だよ」と子供は大人から教えられ、「見た目と中身」を通じて世の中の「本音と建前」を学習してきたものだが、いまやそうした伝承も姿を消しつつあり、建前抜きの社会になってしまったらしい。