「仕事ができる」だけでは足りなくなった

人は見た目が9割』の初版が出た頃から、ビジネス界では「見える化」という語が流行した。仕事の上での「見える化」だけでなく、できるビジネスパーソンは外見も仕事の能力に見合っていることが求められるようになった。

外見が人の中身を表すとされる社会では、芸能人でもない一般の個々人にまでセルフプロデュース力が求められる。どんな言葉遣いをするか、どんな店が行きつけかなども好印象を作る自己演出要素になるが、もっとも効果的であるがゆえにもっとも重要になるのは服装・髪型・化粧・体型といった外見だ。

外見は黙って動かずにいても初対面の見ず知らずの人に一瞬で膨大な情報を与える。眉を整えたりスキンケアをしたりするのは、もはや女性だけではない。最近ではファンデ-ションやBBクリームなどで肌をプロデュースする男性も増加中で、ビジネス用メンズメイクの化粧品や講習会もある。

本音と建前の二本立てを「無駄」ととらえて建前が消える背景には、「時は金なり」の流れがますます加速化し、何事も最短時間で最大の成果を挙げるのがよい、すぐに答えや結果が出なければ問題だといった効率最優先意識、言い換えればコスパ意識の蔓延がある。

「オールインワン化粧品」が普及したワケ

美容では毎日毎日の積み重ねを何年も続けて結果が出るお手入れより、塗ると翌朝には効果が実感できる化粧品の方が売れ、翌朝より1時間後、1時間より数分後に効果が出るものの方がさらに売れる。1品で複数の基礎化粧品の機能を持たせた「オールインワン化粧品」の普及も、数品を使った時間と手間と費用を合理化する発想だ。さらに、化粧品では効果が出るのに時間がかかると美容整形に人が集まるようにもなった。

また「見える化」はわかりやすさの追求でもあるため、美容で求める外見は誰にでもわかるような象徴的で共通性の高い画一的なものになる。誰もが同じような顔と体型を求めてすぐに効果の出る方法を実行する現在の美容は、お店に入ってカウンターで注文するとすぐに出て来る即効性と全国いや世界のどこでも同じ味・同じ商品の画一性、それらのために徹底した効率化・合理化を図るファストフードと同じ構造だ。そこで私は「ファストビューティー」と名付けた。

ファストビューティーで私たちが求める美しさは若さであり健康である。つまりファストビューティーの至上価値は「若さ」と「健康」と「美」の3要素が結びついたものと言うことができる。